(2)それぞれの関係者を参加させることの価値とその難しさを見極める

データ処理サービスをバンドル化して提供しているアウトソーシング会社が、クライアントの銀行と1億ドルの契約の更改交渉を行おうとしていた。銀行は同社の営業担当者に、「A」パックは料金が高すぎるが、「B」パックは魅力的だと述べた。アウトソーシング会社は、Bパックの料金を上げることで、Aパックの料金を銀行が納得するレベルに引き下げ、それでも自社の利益率を高めることが可能だった。

しかし、営業担当者はこの線で交渉を進められなかった。料金決定権は、Aパックのプロダクト・マネジャーだけが持っていたからだ。そのマネジャーはAパックに関してのみ損益責任を負っていたので、Aパックの値段を据え置くインセンティブがあった。この案は会社の総合的な収益性を高めることになるにもかかわらず、Aパックのプロダクト・マネジャーはそれを拒否した。

戦略コンサルタントのラックスがこの会社に与えたアドバイスは次のようなものだった。「契約更改交渉を担当するチームを新たにつくり、このチームに一定の利益率の中で料金を設定する権限を与えなさい。そして、このチームに営業担当者から顧客のニーズを伝えさせなさい」。

アウトソーシング会社のCEO(最高経営責任者)はこの解決策を気に入ったが、それを実現するために敵をつくりたくなかった。有力幹部の人事担当上級副社長が、この改変を歓迎しそうもなかったのだ。この解決策が成功するよう社員の報酬体系を組み直す仕事は、この副社長の管轄である一方、この改変はこの副社長が推し進めていた他の計画と対立する恐れもあった。

(3)カギになる関係を突きとめ、最も説得しにくいプレーヤーに的を絞る

「この副社長の支持が最も肝要だったので、私は、他のどのプレーヤー間で事前にどのような合意が成立すれば、この副社長が『イエス』と言う公算が最も高くなるかを推量する必要があった」とラックスは説明する。プロダクト・マネジャーの上司にあたるCOO(最高執行責任者)と、大口契約更改時の料金設定に関わるあらゆることを監督する立場のCFO(最高財務責任者)がキープレーヤーだと、ラックスは判断した。

料金設定に対する姿勢をより柔軟にすることは双方に利益になることだったので、彼らの支持をとりつけるのは簡単だった。また人事担当上級副社長も、財務の問題やプロダクト・マネジャーのやり方については、彼らの意見に従うはずだった。

「まずCOOに、それからCFOに話を持っていって、この案に反対すべきではないと納得させたことで人事担当上級副社長の同意を得るのが容易になった」と、ラックスは言う。トップレベルの幹部が賛成していることを知って、副社長はこの案に異議を唱えにくくなった。結果、このアウトソーシング会社の収益性の伸びは拡大し、顧客との交渉プロセスはより透明性の高いものになったのである。

(翻訳=ディプロマット)