交渉の際は、「約束」と「脅し」を組み合わせたほうが協力が得やすい。いわば、アメとムチの関係である。しかし、脅しには「報復」という結果を招く危険もある。賢いネゴシエーターはいかに「脅す」べきか。

脅しとは、要求を表明し、その要求に応じない場合の代償を通告する1種の提案である。調査が示すところでは、人は交渉相手が約束だけを提示する場合より、約束と脅しを組み合わせて提示する場合のほうが、かえって相手を好意的に評価する。約束が相手につけ入るスキを与えるのに対し、懲らしめるぞという脅しは相手に協力を促す。しかし、脅しは意図に反して逆効果になることもあるので、老練なネゴシエーターは脅しをいかに賢明に使うかを学ばなくてはいけない。

本稿では、まずどのような場合に脅しを効果的に使うべきかを説明し、それから脅しを使うときの賢いアプローチ──覚悟(willingness)、利益(interests)、面目(saving face)、正確さ(exactness)を備えたもの──を示すことにする。

どのような場合に脅しを使うべきか

ノースウエスタン大学のジーン・ブレット教授らは、脅しが必要かつ効果的な戦術になりうる3つの状況を明らかにしている。第1に、ネゴシエーターが緊迫した膠着状態を打開しようとするとき、相手を交渉のテーブルにつかせるために脅しが必要なことがある。たとえば、武力攻撃するぞと脅しをかけることは、かたくなな姿勢を取り続けている国の代表者を和平交渉のテーブルにつかせる1つの方法だ。第2に、脅しはこちらの言い分を聞こうとしない相手に対する武器になることがあり、交渉を行き詰まりから解決へと向かわせることができる。高圧的な相手に、腕力を使えるのは彼らだけではないということをわからせる方法は、脅ししかないかもしれない。最後に、うまく組み立てられた脅しは、合意が交渉後も生き続けるようにし、実行はもちろん遂行も確実にしてくれる。

脅しは役に立つものではあるが、反発を招くおそれもある。自由が制限されていると感じるとき、人は選択肢を奪われたと感じてそれに反発する。脅しをかけることによって、相手があなたの望みを受け入れる可能性をかえって小さくしてしまうかもしれない。そのうえ、脅しによってなされた合意は不当とみなされるおそれがあり、さらに脅しをかけないかぎり相手は合意を破るかもしれない。脅しをかけることは仕返しの欲求を掻き立てることもある。心理学者によると、報復したいという欲求には生物学的根拠があり、飢えと同じく満たされるまで消えないという。脅しの結果が重大であればあるほど、報復は過激になりがちだ。

したがって、効果的な脅しとは、報復につながるような反感を招くことなく、あなたの利益を満たしてくれる脅しである。あなたの目標は、相手にあなたに対する敬意と好感の両方を抱かせるような脅しをかけることでなくてはならない。敬意はあなたの脅しを信じる気持ちと、あなたの要求に応じようという気持ちを高める。一方、好感は自衛や反抗の気持ちを抑える働きをする。