賢い脅しのかけ方
●賢い脅しは覚悟を表す
賢い脅しをかけるとき、相手が要求に応じない場合には、通告した結果を本当に相手に課すだけの覚悟を持っていなければならない。また、あなたの要求を、相手が応じる気になり、しかも応じることができるような、十分に妥当なものにしなければならない。脅しの真実味を十分に高めたら、脅しの可能性を匂わせるだけで、相手にあなたの望むとおりの道筋を歩ませることができる。
要求は相手にとって実行可能な範囲内のものでなくてはならない。政治学者の故カール・ドイッチュが指摘したように、「最も強烈な本気の脅しでも、人がくしゃみをするのを止めることはできない」。相手が応じたくても応じられないような要求をしてはならない。
●賢い脅しは利益を満たす
賢い脅しはあなた自身の利益を満たし、相手の利益をも満たそうとする。より大きな目標を達成するために、脅しが本当に役立つのかどうかをよく考えよう。脅しをかけることは満足感を与えてはくれるだろうが、それはあなたを特定の道筋に縛りつけるおそれもある。そのうえ、脅しを実行すると高くつくこともある。脅しがあなたの利益を満たすか、それとも侵害するかを判断するには、次の3つの問いに答えてみるとよい。
(1)この脅しは感情にもとづくものではないだろうか?
有能なネゴシエーターは理性的でなければならない。一時的な圧力や移ろいやすい感情に左右されてはならない。また、怒りに流されて脅しをかけるようなことはけっしてあってはならない。怒りは情報処理力の低下、リスクの高い行動、判断の鈍さにつながることが、複数の調査で明らかになっている。信頼できる経験則は、「事前に予定していなかった脅しはけっして使ってはならない」だ。
(2)この脅しは、相手からのもっと大きな脅しを誘発しないだろうか?
反発と報復の欲求のために、脅しは往々にして相手からの逆の脅しを誘発する。何の準備もしていない戦いに乗り出さなくてもよいように、脅しをかける前に報復的対応の可能性とその影響を見きわめよう。
(3)この脅しは相手よりも自分にとって高くつきはしないだろうか?
脅しの目的は相手を懲らしめることではなく、自分の利益を満たすことだ。この重要な点を忘れたら、相手にお灸をすえてやりたいと思うあまり、あなたは自分が払わねばならない代償を無視して脅しをエスカレートさせてしまうかもしれない。
脅しが本当に自分の利益に役立つと判断した場合には、相手を懲らしめるものではなく相手の協力を促すものとして機能する脅しにしよう。あなたの要求に応じないことが相手の利益をどれほど損なうかではなく、それに応じることが相手の利益をどれほど増進するかという観点から、脅しの文言を組み立てよう。