夜も眠れないような困難に直面したとき、「名トップ」と呼ばれる人たちは、なにを考え、どう動いてきたのか。「プレジデント」(2017年3月20日号)では、エステー、ポルシェジャパンのトップに、場面別の対処法を聞いた。第4回は「大赤字を出した」について――。
QUESTION
大赤字を出した
エステー・鈴木 喬 会長の答え
損得勘定抜きでやるべきことがある。世のため人のためなら後悔するな

放射線線量計を被災地のために開発

福島の原子力災害の後、手軽な放射線の線量計をつくろうと思い立ちました。

放射能に対する不安が広がっているのに、バカ高くてまともに動くかどうかもわからない海外製の線量計ぐらいしか売っていない。普段CMで「空気をかえよう」と宣伝しているのに、自分が吸っている空気が安全かどうかもわからないようじゃ話にならない。

「名前は決めた。エアカウンターで行く。損得勘定はいいから、誰でも買える値段にしよう」と役員会で諮ったらこぞって大反対。それでも「日本のためだ。文句があるか。やるったらやるんだ」と押し通して、専門家の協力も取り付けて、何とか商品化にこぎつけました。値段も当初の希望小売価格は1万5750円が限界でしたが、発売時には9800円まで下げて、その後の研究で7900円に。

写真=iStock.com/metamorworks

福島県を中心とした被災地に優先的に販売して、初回出荷分は発売初日で完売。何より嬉しかったのは、「安心した」という声をたくさんいただいたことでした。

商売としては大赤字だった

しかし、皆さんの不安がなくなれば当然、需要はなくなる。商売としては大赤字。経理担当にはえらく怒られ、アナリストからも批判された。

でも全部覚悟してやったことだから、後悔はない。日本の皆さんに会社を育ててもらった恩義がある。日本人が困ったときにお役に立とうとするのは当然のことです。

経営者としては赤字を出すのは褒められたことではない。でも経営者である前に私は日本人です。ときに算盤勘定よりも心意気が大事なことがあります。