5月までに開かれる予定の米朝首脳会談。北朝鮮の核戦力放棄が焦点になっているが、拓殖大学教授の呉善花氏は「米トランプ大統領は、アメリカに届く長距離ミサイルの開発凍結さえ確認できれば、北朝鮮の現体制維持を保証したまま、核保有を容認する可能性がある」と指摘する。そうなれば日本の脅威は消えないことになる。これから想定される「最悪のシナリオ」とは――。

トランプはなぜ金正恩の誘いに応じたのか

3月8日、ドナルド・トランプ米大統領は「北朝鮮が非核化の意思を示した」と評価し、5月までに北朝鮮が望む米朝会談に応じる、と表明しました。米朝会談でどのような話が交わされるにせよ、「非核化の意思」とは、実に曖昧な言葉というしかありません。こんな不確かな状態でアメリカが米朝会談に応じたことに、私は強い危機感を覚えました。

呉 善花・著『韓国と北朝鮮は何を狙っているのか 核ミサイル危機から南北連合国家へのシナリオ』(KADOKAWA)

北朝鮮が「核放棄」を言明して米朝協定などを結び、非核化へ向けて一定の行動を示しながらも、すぐに協定を反故(ほご)にして核開発を続けるといったことが、これまでに何度もあったからです。たびたびの裏切りに苦汁を呑(の)んできたアメリカが、「非核化の意思を示した」という程度で会談に応ずるとは、いったいどうしたことでしょう。

これまで、北朝鮮は「核保有を認めないかぎり対話には応じない」、一方のアメリカは「核放棄をしないかぎり対話には応じない」と言い続けて、真っ向からの対立が一触即発の緊張下で行われてきました。その対立とは、そもそも何だったのか?

2017年の春ごろから、アメリカは北朝鮮に対してさかんに「レッドライン(超えてはいけない一線)」を主張し、レッドラインを越えたら武力攻撃もありうる、との姿勢をとってきました。その際、アメリカはどこがレッドラインかを曖昧にしていましたが、韓国の文在寅大統領は、それを懇切丁寧に北朝鮮に知らせていました。文在寅は、大統領就任100日を迎えて行った記者会見で、「北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)を完成させ、そこに核弾頭を搭載して武器化することになったら、それがレッドラインだ」と述べたのです(WoW Korea2017年8月17日)。