北朝鮮は、「核ミサイル開発は完成段階に達した、アメリカ領土を直接攻撃しうる能力をもった」と公言しています。しかし、実際に完成に近づいているとはいえ、おそらくまだいくつかの実験が必要で、「アメリカ領土を直接攻撃しうる能力」を完成させているといえないことは明らかです。それを承知のうえで北朝鮮は、「完成した」といっているのです。

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この主張を額面どおりに受け取れば、「核開発はすでに終了した」ということになります。ということは、この「完成した」という公言によって、北朝鮮は「アメリカ領土を核攻撃しうる能力については完成させない」と暗に表明している、とも受け取れます。北朝鮮は、そこがアメリカのレッドラインであることを十分に心得ているからでしょう。

これまでアメリカは、北朝鮮の現体制容認を表明しており、体制崩壊の意図はない、求めるのは核放棄だけである、とたびたび発言しています。こちらもアメリカの主張を額面どおりに受け取れば、北朝鮮がレッドラインを越えないかぎり、北朝鮮の体制は事実上、アメリカに保証されたのも同然、ということになります。

今回の米朝会談の決定は、このレッドラインをめぐる攻防の終わりを告げるものでしかありません。最終的な朝鮮半島非核化への道を開くものとはならない、というのが私の考えです。

北の核放棄も、米朝戦争も起きない可能性

韓国の要人はこれまで「北朝鮮が韓国を核攻撃することはありえない」との認識を示してきましたが、このレッドラインをめぐる攻防が終わっても、日本にとっての北朝鮮の核の脅威はまったく消えません。北朝鮮の核ミサイルは、すでに日本全域を射程に入れています。射程距離1300キロメートルの弾道ミサイルのノドンは、現在、数百基配備されていると見られますが、2012年時点ですでに50基が配備されていたといわれ、アメリカ政府は2013年4月、これらのミサイルに「搭載可能な小型核弾頭を保有している可能性がある」と日本に伝えてきています。