おまえしかない――。空前の巨大施設を託されたのは、農家と語り科学者をその気にさせる営業のプロ。まずは社内公募で「全員素人」の女性部隊を編成し、ファッションやスイーツ店を開拓していった。
「これだけでかいと支店では“料理”できない」
「つくばの例の土地、うちに決まりそうなんだ。おまえ、やってくれないか?」
猛暑が続いた2005年の夏。東京・飯田橋の大和ハウス工業東京支社で、直属の上司に「ちょっと」と呼び出された佐々木健雄は、その言葉を聞くなり即座に返答していた。
「もちろんやります。よろこんで!」
大は100店以上のテナントを集めた巨大ショッピングセンター(SC)から、小はコンビニの店舗まで。商売に向いた土地をリサーチし、地主を口説き、最終的には大手流通業者などの店舗づくりをコーディネートするのが佐々木ら流通店舗事業推進部の仕事である。もともとは住宅メーカーの大和ハウスだが、30年も前からこうした店舗づくりに乗り出し、近年は建設だけではなく施設の開発・運営にも積極的だ。
しかし今回の案件は従来とはスケールが違った。開通間近のつくばエクスプレス研究学園駅前に広がる14.5万平方メートルもの原野同然の土地。そこに北関東最大のSCを建設せよ、というのである。
「つくば支店がコンペで競り落としたはいいが、これだけでかいと支店では『料理』しきれない。本部でやってくれとの支店長直々のお願いだ。頼むぞ!」
上司はこういって、分厚い手で佐々木の肩を叩いた。
大和ハウスとしては初の大型SCである「湘南モールフィル」(神奈川県藤沢市)などの開発を成功させた佐々木は、自他共に認める“流通店舗のエース”。
だが、同年4月に開業した中規模SCの運営を軌道に乗せ、ほっと一息ついたところである。ここで新しいプロジェクトに取りかかれば、休日もろくにとれない嵐のような日々がやってくる。妻や息子には少なからぬ迷惑をかけるだろう。それでも「これだけ大きなものに挑戦できるのは幸せだ!」。43歳の佐々木は、そう思わずにはいられなかった。