遂に誕生した日本発の「世界最強車」日産GT-R。その開発責任者の座を一度は拒絶した「自動車づくりの棟梁」はなぜ立ち上がったのか。そこには、ある神がかり的な“偶然”が……。
もう、演歌や浪花節のGT-Rじゃダメ
「いきなり本題から入っちゃうけど、キー・エッセンスって、やっぱりMADE IN JAPANなんだよ」――のっけから、堰を切ったように言葉が溢れた。
「日産GT-Rというより、まさしく“ニッポンGT-R”なの。ブランドって、僕はナショナリティだと思ってる。土地と、そこに住む人の智恵なんだよ」
07年12月に国内で発売されたNISSAN R35GT-R(以下GT-R)の開発総責任者、水野和敏。国内外で数々のレースの実績と、Z33フェアレディZなどのヒット車を持つ。多くの腕利き職人がそうであるようにリアルで尖がった言葉を連発する水野は、しばしば悪戯っぽい笑顔のまま「俺、バカだから」「嫌われ者だから」を繰り返す。謙遜か、投げやりか、「でもあなたよりはましだ」と笑われているのか、当初はわからなかった。
最高時速310キロ。サーキットでは同クラスのポルシェ、フェラーリを凌駕するタイムを叩き出すGT-Rは、純正のレーシングカーに近い。欧州車なら2000万円超級の性能ながら、他の市販車同様に工場のラインでの生産を可能にし、1台の価格は777万円。しかも、街中でも違和感ない走りが楽しめるという。
国内の市販車にそんなスペックが必要か? と斜に構えるなかれ。海外での売れ方が異例ずくめなのだ。09年4月の発売を前にイギリスで1100台、ドイツで400台、ヨーロッパ全体で2300台と2年待ちの状態(価格約1300万円)。UAE(アラブ首長国連邦)、サウジアラビアなど中東諸国の王族からは、まだ現地では未発表であるにもかかわらず、一括で400台を受注。現地入りした水野直筆の納品書と、金のストライプ入りキー付きで08年6月より納車を継続中だ。
アメリカ・ビバリーヒルズの高級ショップ街、ロデオドライブでテスト走行した際、他の欧州車にも増してカメラを向けられ、注目を集めたというGT-R。正真正銘、日本発のスーパーカーに本場のセレブリティが熱い視線を浴びせている。数年前なら誰も想像しえなかった事態、と水野は強調する。