法律改正で企業は社員を65歳まで継続して雇用しなければならなくなった。60歳の「定年」を迎えた後は給与が大幅に下がるのが普通だが、定年後の給与引き下げには裁判所の判断もゆれている。さらに政府は65歳以降も働くことができる社会を目指している。そのとき給与はどうなるのか。企業とシニア社員がお互いに満足する方法とは――。

定年後の賃金ダウンは違法か?

「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年齢者雇用安定法)が改正され、65歳までの継続雇用は企業に義務づけられました。たいていの会社では、定年延長後の賃金水準は大幅に下がります。

ところが、2016年5月13日、東京地裁で驚くべき判決が出ました。これは、横浜市の運送会社で定年再雇用後のトラックドライバーが起こした裁判で、「仕事内容が変わらないのに、年収が定年前より2~3割下がるのはおかしい」という訴えです。これに対して裁判長は、「定年前と同じ立場で同じ仕事をさせながら、給与水準を下げてコスト圧縮の手段にするのは正当ではない」として、会社側に賃金差額の支払いを命じる判決を出したのです。

これは、企業がこれまで実施してきた定年後の継続雇用方針に対して、根本的な見直しを迫る判決といえます。多くの企業は、65歳まで継続雇用する代わりに、「再雇用後の賃金については、企業と労働者の合意に委ねる」という前提で、賃金水準を設定しています。これがアウトということになれば、人事制度の大幅な見直しを迫られることになるからです。

その後、2016年11月2日の控訴審で、東京高裁は、「定年後に賃金が引き下げられることは社会的に受け入れられており、一定の合理性がある」として、一審の判決を覆しました。しかし、今回の判決をきっかけに、同様の訴えを起こす人が増える可能性は高まったといえるでしょう。また、今後の国会審議が予定されている同一労働同一賃金関連法案のゆくえも気がかりです。

では、企業はどのような対策を打てばいいのでしょうか。

「定年前と同じ仕事をさせながら、給与水準を下げてはいけない」というのであれば、選択肢は大きく2つです。賃金を下げないか、同じ仕事をさせないか、ということになります。

トヨタ自動車は、2016年1月より、工場で働く社員に対して「一定の条件を満たせば現役時代と同水準の待遇で働き続けられるコース」を設定して話題となりました。しかしながら、このような思い切った選択のできる会社は、人件費負担の面からも限られるでしょう。

では、「賃金水準は下げるけれど、仕事内容も大幅に見直す」のか。これも、ちょっと先走りしすぎだと思われます。現時点では、「賃金水準は下がっているが、仕事内容も変更している」ということを証明できるようにしておく、というのが企業側の現実的な対応策ではないでしょうか。

例えば、「現役時代と同じように営業部門ではあるが、チームリーダーから営業マンに役割変更しており、責任範囲も軽減されている」、あるいは「定年前よりも、営業担当範囲や売り上げ目標が縮小している」といった感じでしょうか。