――その話術はAVの世界に入ってからも、活用できたのではないですか?

【村西】人間は自分が正しいと思っています。死刑囚だって自分が正しいと思っている。でも、すべては視点の置き方です。だから、「こういう見方もありますよ」と相手が腑に落ちる視点を提案する。そういう意味ではAVも同じですね。

恥ずかしがる女性には、「あなたのスタイルは素晴らしい。ゴージャス。恥ずかしいですか? わかります。でも、カメラの向こう側にいる人は、もっと恥ずかしい格好をしているんですよ」と言います。そうすると、「あ、そうなのか」とフッと納得するのです。

――納得するんですか?

【村西】しますね。言葉にはすごく大きな力があるんですよ。殴られたわけでもないのに、言葉ひとつで人は顔が真っ赤になったり、ドキドキと心臓が高鳴ったりします。言葉で現実に対するものの見方は変わるのです。私はそれをセールスマン時代に学びました。

ニックネームは「全裸監督」

――村西監督にとって、言葉を磨いたセールスマンの経験は原点なのですね。

【村西】高校を卒業して福島から裸一貫で上京して、苦し紛れで生きてきて、結果的にそういう知恵が身についたということですね。私はね、「全裸監督」(村西監督の評伝のタイトルでもある)というニックネームが好きなんです。これは裸の仕事をしているという意味ではなく、一文なしであっても、私は私であり得るということだと解釈しています。

――それに、裸であっても体と口はあるという意味でもある。

【村西】その通りでございます(笑)。本には人生であったいろんなことを書きましたが、こうして話の種になっているのですから、今思えばすべての経験が財産です。

村西とおる
1948年、福島県出身。高校卒業後上京し、水商売、英会話教材や百科事典セールスなどを手がける。ゲームリース業で成功を収めた後、裏本製作販売に転じる。わいせつ図画販売容疑で逮捕され、保釈後の84年、AV監督となる。88年ダイヤモンド映像設立。衛星放送事業への投資失敗により、92年に50億円の負債を抱えて倒産。評伝に『全裸監督 村西とおる伝』(本橋信宏/太田出版)。
(構成・聞き手=小山田裕哉 撮影=堀哲平)
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