――「モノを売るな、感動を売れ」という商売の原則は、多くの方も指摘しています。しかしセールストークでそれを実現するのは、簡単なことではありません。村西監督は具体的にどのように語っていたのでしょうか?

【村西】私が売っていた英語百科事典は、1セット20万円もする高価な商品でした。そんな高価なものね、本場の外国人だって持ってないですよ(苦笑)。でも、それを売る。みんな週に1セット売れれば上出来だったところを、私は多いときには週に20セットくらい売っていました。

――そんな高価な商品をセールスされたら、客は当然「高い」と言いますよね?

【村西】お客さまが断る理由というのは、多くても5つくらいです。高い、必要ない、同じ物を持っている、今すぐ決められない、おカネがない。だったらその5つに対して、それぞれクロージングトーク(売るための答え方)を用意しておけばいいのです。例えば「高い」と言われたら、こう答えます。

「あなたがお使いのボールペン、これが10万円だったらさすがに高いですよ。しかしビジネスの最前線で戦ってらっしゃるあなたのボールペンが、100円では安すぎるでしょう。やっぱり1000円程度が適切な、あなたに相応しい金額のものではないかと思います。

それと同じように、国際化社会の時代において、あなたの戦力になる英語の能力を身につけられる、この20万円のセット。これが高いとおっしゃるなら、あなたの人生をおとしめるようなことを、ご自身がおっしゃっているのではないですか。いかがですか?」

――すごいですね。ちょっと話のポイントをズラしただけで、反論できなくなりました。

【村西】この世に普遍的なものの見方なんてないのです。同じ黄色といっても、私とあなたではイメージする度合いが違います。私の価値観がある、あなたの価値観がある。しかし、ものの見方を変えれば、お互いの価値観がクロスオーバーできるところがあります。そこを探るのです。

それは英語百科事典でいうと、「私は高価な事典を売りたいのではありません。あなたに役立つ知恵をお届けしたいのです」ということになります。