毎年8万冊近くの新刊が刊行される中、何を読めばいいものか。書評家で出版コンサルタントの水野俊哉氏が、今、読むべき言葉本を伝授する。

3億円の借金地獄から救ってくれた言葉

名言は人に活力を与える。だが、あまりに絶望の底にいるとき、いったい人はどんな言葉に救われるのだろうか。

私の話をさせていただくと、ベンチャー企業を若くして立ち上げ、上場直前までいったものの、内紛をきっかけに会社から追放、3億円の借金だけが残った。日々膨れ上がる利子……。そんな地獄の中で気力をなくしていた自分に元気をくれたのは、極限を見てきた人たちの言葉だった。こんな自分でもまだなんとかなる。元気がでた。

『カネに死ぬな 掟に生きろ』に登場する「カネを貸さずに殺された奴はいても、返さないで殺された奴はいない」はまさに名言である。実際、3億円もの借金を抱えたとき、債権者は優しかった。「死なれたりしたら回収できない」と考えるからだ。逆に、お金を借りにいったとき、貸してくれない相手に対しては、すごく頭にくる。これこそが人間の心理なのだろう。

次に紹介したいのが、11人の社長たちの伝記である『アウトロー経営者の履歴書』だ。成功者の伝記は一般的には美談が並べられることが多いが、本書では破天荒な言動や行為でトラブルを起こしたり、周囲の人から嫌われたりしていた側面がわかるから面白い。

例えば、電力王にして電力の鬼と言われた松永安左エ門が巨大プロジェクトをぶち上げた際、「金がないというのなら、この僕が贋札でも何でも作ってやる」と言う。あまりにも強烈な個性の連続に毒あたりしそうな本だが、どん底から這い上がりたいときにはこれくらい強烈な言葉が効くのである。

また、小林一三の話では、サラリーマン時代のダメ社員ぶりがあますところなく書かれており、そこから脱サラして阪急グループの創設者として大経営者になったことを考えれば、読み手に自信と勇気を与えてくれる。

『ジョジョの奇妙な冒険』は、1987年から連載されている長寿マンガだ。死闘を繰り広げる登場人物たちが、極限の状況で発するセリフに共感も多い。その名言を集めたのが『ジョジョの奇妙な名言集』である。「いつも最短の近道を試みたが『一番の近道は遠回りだった』『遠回りこそが俺の最短の道だった』」は人生にも通じる言葉だ。