武道の達人が「心技体」の揃った人物であるように、ビジネスパーソンも能力にバランスが取れていなければいけない。その結果は「人望」として現れてくる――。

ビジネスパーソンに必要な七転八起精神

20世紀の社会は、主として欧米流の二元論的発想が中心になっていたと言えるのではないでしょうか。ビジネスの世界でも同様で「イエスかノーか」あるいは「右か左か」という二者択一の選択が求められがちです。しかしそれでは、物事の全体像を把握することができません。今回は「ヤジロベエ」の原理を借りて、これからのビジネスパーソンの理想像について考えてみます。

ご存じのように、ヤジロベエは中心軸の左右の重りでバランスを取っています。そのどちらかが重すぎると倒れてしまいます。二元論が過ちに陥りやすいのは、一方の価値観に偏ってしまうからにほかなりません。「木を見て森を見ず」という言葉のとおりです。

そうならないために不可欠なのが「大局観」だと考えます。具体的には、異なるさまざまな要素や正反対の価値観を同時に取り込むことです。その結果として、バランスが良くなり、全体最適の解決策が導き出せるようになります。

この発想のきっかけを与えてくれたのは、私どもの前身の会社や日本航空(JAL)で顧問をされていた方です。当時低迷していたJALの幹部に対して「君たちは全日空(ANA)に乗ったことがあるのか」と聞いたそうです。返ってきた答えは「ノー」でした。そのときに彼は「他社の航空機に乗らなければ自分たちの目指すべき方向性(サービスやクオリティーのレベル)がわからないだろう」と一喝したそうです。バランス感覚の大切さを伝えたかったのだと思います。

私は「大局観を持つには何を意識すればいいか」という質問を受けることがあります。そのときには「常識性」と答えています。これを備えている人は中立の立場で物事を判断できるからです。

ヤジロベエも、風が吹いたり、手で押されたりすれば揺れます。しかし、そうしたストレスに対しても、しなやかに釣り合いを取って元に戻ります。起き上がり小法師(こぼし)のダルマもそうです。七転八起で何度でも起き上がり、再チャレンジする。これからのビジネスパーソンには、そんな強靭さが必要です。