よく武道の世界では「心技体」といいます。心とは精神や心のありよう、技は技能や専門知識、体は第一印象や態度、その人の姿を差します。そして、これらは相互に関係し合うものです。心の円と技の円を描いたとき、重なり合う部分が体といってもいいでしょう。
どんなに卓越した技を持っていても、慢心や油断といった心の乱れがあれば、その技を活かしきることはできません。技を存分に発揮するには体が崩れないことも重要です。この3つが高い次元で融合してこそ、武道家であれば達人と呼ばれる域に達することができるのです。
このことは「リーダー論」にも通じると思います。リーダーの要件をひと言でいうと「フォロワーの存在」です。武道家の例にならえば、師範や師範代のような立場として認められるには心の落ち着き、技のキレもさることながら、それ以上に人望が求められます。
組織で最も重視される人間関係
ビジネスパーソンも同じです。仕事への真摯な姿勢、周囲が認めるマネジメント能力に加え、志の高さがその人物を際立たせます。もちろんそれは、一夜にしてなるものではありません。日々の精進の積み重ねが自信となって現れ、信頼感を醸成するのです。
おそらく、周囲への気遣いや、部下への思いやりもあることでしょう。さらに、仕事の流儀でも、ガンガン儲かるような企画・アイデアがあったとしても、その社会性や将来性を勘案して「自分たちだけが儲かればいい」という選択はしないはずです。目前の利益も大切ですが将来の信用も同時に考えなくてはなりません。
お気づきかもしれませんが、これが「和の文化」に立脚する日本企業の働き方にきわめてマッチしているのです。なぜなら、そこで最も重視されるのが人間関係だからです。これができるリーダーは、社内だけでなく、どこへ行っても会社の壁を越えて評価されるのです。
つまり、心・技・体になぞらえた全体を取り巻くものとして、日本独自の和の思考方法を身に付けてほしいと思います。バブル経済の崩壊後、日本では国際化やグローバル化が叫ばれ、相次いで欧米流のマネジメントスタイルが導入されようとしました。しかし実際には、日本企業は思ったほど欧米化されていません。
もちろん、いまは激動の時代ですから、ダイナミックな経営戦略も必要でしょう。しかし、そこに心・技・体の調和したリーダーがいてこそ功を奏することを、私たちは忘れるべきではないのです。
半蔵門パートナーズ 社長
1968年生まれ、石川県出身。日系・外資系、双方の企業(航空業界)を経て、19年の人材サーチキャリアを持つ、経済界と医師業界における世界有数のトップヘッドハンター。日本型経営と西洋型経営の違いを経験・理解し、企業と人材のマッチングに活かしている。クライアント対応から候補者インタビューまでを自身で幅広く手がけるため、全国各地を飛び回る。2003年10月にサーチファーム・ジャパン設立に参加、08年1月に社長、17年1月~3月まで会長就任。現在、 半蔵門パートナーズ代表取締役。大阪教育大学附属天王寺小学校の研究発表会のほか、東京外国語大学言語文化学部でのビジネスキャリアに関する講演などの講師としても活躍。著書に『会社の壁を超えて評価される条件:日本最強ヘッドハンターが教える一流の働き方 』など。