転職者の約6割が異業種への転職だという。転職とはその能力や人間性が他社でも高く評価されるかによって成否が決まる。ヘッドハンターが教える異業種転職を成功させる人材の条件とは。

大手メーカーの事業所トップが総合病院事務長へ

19年におよぶ私のヘッドハンター経験のなかでも、特に印象に残っている人材のマッチング例から、まったく畑の違う業種に移って評価され、成功した人物の例を挙げてみたいと思います。大手メーカーの事業所でトップを務めていた50代のEさんは、当社の紹介で総合病院事務長に転職しました。数年を経過したいまでは、その病院になくてはならない人材として活躍されています。

こうした異業種への転職は日本でも増えてきました。人材サービス大手企業が2014年に行った顕在化した転職市場におけるデータマッチングをもとにした調査では、異なる業種へ転職した人の割合は6割だといいます。 本調査によると、職種は営業が多く、年齢が上がるに従って異業種への転職の成功率は下がるという結果でした。企業の戦略的ポジションを担う我々、エグゼクティブサーチにおける異業種の転職とは、採用背景が異なるようですが、6割とはいえ、それが成功するのはそう簡単ではないでしょう。その際に重要になってくるのが互いの「OS」。パソコンの基本ソフトであるOSのイメージで、つまり新たな勤務先と転職者の価値観の違いです。勤務先企業の経営理念や制度と転職者の仕事観が合うかどうかがポイントです。

Eさんのケースは、それが非常にうまくいった好例です。彼がそれまで勤務していた事業所は、部品メーカーからパーツを仕入れ、それらを組み立てて製品化するアッセンブリ工場でした。そこには正社員はもとより、非正規のパートやアルバイトの従業員たちが異なる勤務体系で働いています。その労務管理や製品の品質管理がEさんの仕事でした。

なぜ製造業の事業所でトップだったEさんに、総合病院の事務長職を持ちかけたのか。当然、彼の人物だけを評価したのではありません。Eさんの場合、彼を知る人物を通じて、ある程度の情報は得ていました。そこで私が着目したのは、彼が現場で培ってきた技術や経験でした。クライアントである病院からは「工場の生産管理に長けたマネジメントクラスの人材を」という要望をもらっていたからです。

総合病院ならドクターや看護師だけでなく理学療法士や薬剤師のようなコメディカル、そして事務職の人たちが交代制で働いています。大量の薬剤や医療機器も安全に管理しなければならないわけですが、その手法がアッセンブリ工場の現場と比較的近いと考えたのです。

そして、ここが重要なのですが、Eさんがいた大手メーカーは創業者の理念を営々と受け継いでおり、その核は「人づくり」だったのです。市場環境の劇的な変化にもかかわらず、その会社はヒット製品を出し続けることができました。それは力のある人材を育て続けてきたからに違いありません。Eさんは、そうした社風のDNAを体現したリーダーでした。