スカウトで本人、企業を活性化させる

一方、その総合病院は急速な拡大期にあり、経営陣の未来志向的な事業経営を進めていたのです。新しい事務長には、院内改革も推進できるイノベーターとしての能力も期待されていました。この案件のコンタクトを取ったときのEさんの表情が忘れられません。驚かれていましたが、丁寧に説明していくうちに納得され、両者の初顔合わせで意気投合したのです。

転職には「タイミング」があります。当時、Eさんが勤務していた事業所は、工場を含めて外資系企業に売却されることになっていました。従業員の雇用は守られ、彼も社員として残ることもできたのですが、外資系企業になれば「人づくり」を続けられるとは限りません。自分を慕う部下のことも考慮しつつ、Eさんは退任(退職)を決意しました。

総合病院事務長として働きはじめたとき、給与は半減してしまいました。それでもEさんは給与には固執せず、「働きぶりを見て今後、判断してほしい」と伝えました。報酬よりも、異業種での新たな仕事にやりがいを感じていたそうです。

これまでのビジネス人生で身に付けたものを、1つの企業に対してだけでなく、社会に還元していきたい。「人材育成を通して、社会に人材を返していきたい」という気持ちが強かったそうです。おそらく、長年在籍したメーカーのOS(価値観)がEさんの持っていた資質に影響を与えたのでしょう。働くことに関して利己的なこだわりを捨て、社会貢献を企業人としてのゴールにするというのは、Eさんの仕事ぶりにも表れるだろうと思いました。

入社後ほどなく、実力を発揮する機会がやってきました。病院が成長戦略の一環としてM&Aに乗り出したのです。そこでEさんの事業所売却の経験が役立ちました。もともと病院からは、経営計画のなかで「他の病院を吸収する予定もあるので、M&Aの経験者であれば、なおありがたい」という要望が出ていました。それがピタリとはまりました。

私どもは、こうしたスカウトを通じて、本人だけでなく職場も企業も活性化していくことを目指しています。異業種であっても、あなたの働き方が評価される場所は必ずあるものです。あらためてこれまでの来歴を振り返ってみてください。そして、希望する転職先の会社が掲げる理念、そして経営戦略のなかで、あなたがいかに機能(能力発揮)できるのか。そこにやりがいが感じられることが必要です。

武元康明(たけもと・やすあき)
半蔵門パートナーズ 社長
1968年生まれ、石川県出身。日系・外資系、双方の企業(航空業界)を経て、19年の人材サーチキャリアを持つ、経済界と医師業界における世界有数のトップヘッドハンター。日本型経営と西洋型経営の違いを経験・理解し、企業と人材のマッチングに活かしている。クライアント対応から候補者インタビューまでを自身で幅広く手がけるため、全国各地を飛び回る。2003年10月にサーチファーム・ジャパン設立に参加、08年1月に社長、17年1月~3月まで会長就任。現在、 半蔵門パートナーズ代表取締役。大阪教育大学附属天王寺小学校の研究発表会のほか、東京外国語大学言語文化学部でのビジネスキャリアに関する講演などの講師としても活躍。著書に『会社の壁を超えて評価される条件:日本最強ヘッドハンターが教える一流の働き方 』など。
(取材・構成=岡村繁雄)
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