※プレジデント誌の特集「トヨタvsグーグル」(2013年9月16日号)からの転載記事です。
社員を「人」の能力で評価するか、欧米流の「仕事」の中身・成果で評価するか――。トヨタは長らく日本企業が守り続けてきた「人基準」に徹底してこだわる会社である。一般的に人基準を職能主義、仕事基準を職務主義と呼ぶ。
給与体系も欧米の職務給が今就いている職務(ポスト)に基づいて支払われるのに対し、トヨタはほぼ全員の賃金が毎年積み上がっていく生活保障型の給与体系だ。基本給は職能給と資格給の2本で構成。資格給は社員の能力を格付けした等級ごとに支払われる固定給であり、職能給は毎年の人事評価によって昇給額が決まる。課長職に相当する基幹職3級までは前年の昇給額に上乗せされていく積み上げ給。次長職から上の基幹職2級以上は毎年の人事評価結果で職能給は増減する。
「職能主義というのは長期にわたり人を育てて長期に力を発揮してほしいという長期雇用前提の仕組みです。その人の持っている能力を伸ばし、伸張度合いによって報酬も支払う。したがってがんばって仕事をすれば、ほとんどの人が課長までにはなれますし、課長になるぐらいまではそんなに差がつきません」(宮崎直樹元専務(現豊田合成副社長))
能力に応じて安定した給与を保証する職能主義は人材育成の方針と密接に連動している。トヨタは人事、経理、開発といった機能別ごとに育成を行う。基幹職になるまでに核となる専門性を身につけさせるのが「マスター(親方)養成プログラム」だ。前述した「職場先輩制度」を通じてマネジメントの基礎を習得するとともに、一人前の専門家としての技能を徹底的に学習する。
「各機能で一人前になるにはどういう経験をしなければいけないのかというプログラムを作っています。たとえば人事部といっても採用の業務もあれば、福利厚生の企画、社員の評価、異動に関する業務、労務対策など多岐にわたっています。しかも日本だけではなく、海外拠点での業務もあります。課長になるまで15年、20年の間に培った専門性で飯が食えるような力を身につけることを目標にしています」(宮崎元専務)