評価されるリーダーの言葉遣い
世界の経営学において最も重要なテーマの一つが「リーダーシップ」です。旧来、「責任感」や「人間性」など抽象的な表現で語られてきた「リーダーシップ」ですが、近年の経営学では統計分析などの科学的な知見から、「2種類のリーダーシップ」という研究がコンセンサスを得ています。
その2種類のリーダーシップとは、「トランザクティブ・リーダーシップ」と、「トランスフォーメーショナル・リーダーシップ」です。前者は部下の意思を重んじ、取引のように部下とやり取りをするリーダー。対して後者は、目標を明確に掲げて部下のモチベーションを高め、その成長を促すリーダーです。
前者は部下に「アメとムチ」を与えてうまく使うタイプ。後者は啓蒙を重視する、カリスマタイプというとわかりやすいでしょうか。
そして、一般にトランスフォーメーショナル・リーダーのほうが、より組織の成果の向上につながるという研究成果が多く得られています。トランスフォーメーショナル型のリーダーは、特に不確実性の高い環境で企業の業績を高める、という結果もあります。
現在の日本を見ると、トランスフォーメーショナル・リーダーとして思い浮かぶ経営者といえば、ソフトバンクグループの孫正義社長、日本電産の永守重信社長がいます。彼らは創業経営者で、事業環境も安定していなかったからこそ、カリスマ性が求められました。
事業環境が安定しているときには、カリスマはむしろ業績を下げるという研究もあります。とはいえ、ビジネスを取り巻く環境は日々不確実性を増しています。日本でもトランスフォーメーショナル型のリーダーが重要性を増しているのは間違いないでしょう。
加えて、よく語られるリーダーの条件に、「優れたビジョンが示せること」があります。しかし、「優れたビジョン」とは漠然とした表現です。最新の経営学ではその曖昧な概念に対し、統計分析などの科学的な手法による知見が得られています。
たとえば、米メリーランド大学のロバート・バウムたちの研究です。バウムの研究では、優れたビジョンについて、6つの特性が指摘されています。それは、(1)簡潔であること、(2)明快であること、(3)ある程度抽象的であること、(4)チャレンジングなこと、(5)未来志向であること、(6)ぶれないこと。当然に思える要件もありますが、実際にこれらを兼ね揃えたビジョンを提示できている企業はそう多くないかもしれません。