「市場の正しさ」を徹底的に考える

1991年3月まで4年3カ月間、日本興業銀行(現・みずほフィナンシャルグループ)が買収したウォール街のランストン証券で上席副社長を務めた。同社は、米国国債を落札して売買するのが専業。いわゆるプライマリーディーラーで、売買に当たるトレーダーは自分を含めて7、8人だった。

日本郵政社長 長門正貢

ある日、チーフトレーダー兼務の社長が、解せない取引をした。当面は国債の価格が上昇(金利は低下)すると読み、買い進めてきたのに、先物相場で売り注文を出した。そこで、「何をやっているのか?」と尋ねた。何かを疑ったのではない。知らないことやわからないことに出合えば、すぐに学び、理解したいのが長門流だ。

社長は「相場が上がってきたから、売っただけ」と言う。重ねて聞いた。「だったら、買い込んできた現物の国債を売ればいいのでは」。すると「ナガト、違う。我々は、様々な分析から金利は上がるとの論理で買っていて、それは変える必要はない。ただ、いま先物でちょっと売ったのは、明らかに綾としてこういうことが起きるとわかったので、お小遣いを取ろうとしただけだ。基本の論理は、まだ同じだよ」と説いてきた。

トレーダーは、それぞれの「論理」を持ち、大事にする。そこに触れて、思わず唸った。

興銀に入って最初の4年間、調査部でマクロ経済の分析を鍛えられたから、金利の予測はいくらでも言える。でも、それはトレンド(傾向)であって、日々の市場の動きとは違う。債券市場で相場を張って儲けるには、市場の動きを読み切らなくてはいけない。要は「考えて、考えて、考えて、方向感をみる」ということだ。40歳を挟んで過ごしたランストン時代に、学んだことの一つだ。