「正しいか、正しくないか」

1990年8月9日の経営会議に、「経営システムの検討」と題した討議資料が提出された。A4判で、表紙の次に15ページ。数カ月前から率いてきたプロジェクトチームで、まとめた提言だ。40歳を迎えたばかりの夏だった。

住友化学社長 十倉雅和

前年暮れに、社長が「2001年に国際規模の総合化学会社になる」とした長期経営戦略を決定した。あらゆる事業案件を吟味し、予算を付けるか可否を決める査業部で、部長補佐を務めていたときで、その策定にも参画した。併せて、「国際規模の総合化学会社」の達成にはどう組織を活性化し、責任体制を明確にすべきか。その提言をつくれ、と指示が出た。

上司の取締役査業部長が、すぐプロジェクトチームを編成した。「俺が責任をとるから、好きにやれ」と明言し、自らチームリーダーに就いたが、実質的な責任者に指名される。専従は、自分と後輩1人だけ。あとは、経営企画や人事、総務、経理、各事業部門から計11人が、兼務で参加した。

部長の問題意識は、明快だ。本社の機能や権限が大きすぎる、スモールガバメント(小さな政府)に改革しよう、と言う。全く同感だ。本社が仕切ると、いくら事業部のことを理解したと言っても、実際に製品を売ったことはなく、きれい事だけでは済まない苦労はわからない。どうしても机上の議論で、上から目線になる。「これではいけない」と感じていた。

そこで、「小さな本社」にするには、「これは正しいか、正しくないか」だけを判断基準とした。既得権的な発想を排し、ゼロベースで始める。数学好きの身には、合った進路だった。