意思決定のスピードアップ、現場への権限委譲、人件費削減のために、多くの日本企業で組織のフラット化がすすめられた。しかし、フラット組織はうまく機能しているのだろうか。グーグルのようなフラット組織の成功例とはどこが違うのだろうか。
組織のフラット化で増えた管理職に対する不満
かつて日本企業では、評価査定によって昇進の階段を駆け上がり、賃金も上げることができたため、定年まで勤めても従業員全員が仕事を生き甲斐に働き続けることができました。しかし1990年代後半から成果主義や組織フラット化という改革を進めた結果、評価査定や管理職に対する不満が増え、職場は活力を失い混沌としています。
その理由として挙げられるのが、フラット化でヒエラルキーをなくしたことによる「インセンティブ機能(動機づけ)」の低下です。フラット化導入前の研究では「査定によって、賃金、特に昇進・昇格に差をつけてきたことが日本の労働者のインセンティブ向上に役立ってきた(*1)」(橘木俊詔)と考えられてきましたので、フラット化導入後はそこに影響が出ていると推測されます。
日本企業では組織フラット化導入に際し、(1)意思決定プロセスのスピードアップ(2)現場への権限移譲(3)ポスト縮小による人件費削減の3つのメリットが、ヒエラルキー組織のデメリットを上回ると当初は期待されていました。しかし日本企業で効果を挙げたのは人件費削減の一つだけで、その他はすべて問題の種となりました。
まず、管理職の業務過多が現場で顕在化しました。意思決定がトップダウンである欧米企業の視点からすると、情報が管理職1人に集約されれば、機能的合理的に意思決定ができると理論上は考えられます。しかし、企業従業員調査によると日本企業では合議による意思決定が90%も占めています。合議による意思決定では、管理職1人に情報が集約されると身動きが取れなくなってしまいます。そのため管理職は部下に対して十分な業務対応ができず、評価査定に対する不満もうっ積しました。
●ボトムアップの意思決定
特に不満が多い若手の場合は、中間管理職層(特に課長)がいなくなり、ボトムアップによる仕事が機能しなくなりました。その研究分析が日置弘一郎ほか著『日本企業の「副」の研究』第5章に紹介されています。
「ボトムアップの意思決定では、各課内のとりまとめ、他課や他部との交渉・打診が合議形成に効率的であり、決裁の迅速化をもたらしている。こうした役割を課長代理が課長のために、次長が部長のために演じている。(中略)問題は決裁の効率であって職階の数ではない(*2)」
日本企業のお家芸であったボトムアップによる活力創出は、根こそぎいなくなった課長などの「副」の機能が支えていたとする説には深く共感します。