10年前のリストラとの違いは削減対象

銀行の貸し渋りや円高などの影響で企業の経営状況が悪化する中、人員削減を余儀なくされる企業が増えてきた。弊社が提供するサービスの一つ、アウトプレースメントの需要も2008年の夏以降急増している。希望退職を募り再就職支援を行うこの手法は、バブル崩壊後、リストラが盛んに行われた10年前に導入が相次いだ。企業は限界まで組織のスリム化を図り、社員1人当たりの給料はそのままに仕事量を増やすことで生産性を高めた。

ここ数年はその反動からか大量採用が行われたが、この数カ月で、状況は急変、新卒採用では内定取り消しという事態が起こり社会問題化している。企業は株主や市場、銀行から待ったなしの状況に置かれ、ついには既存社員の人員削減を考えるまでに追い込まれている。超売り手市場と言われた1年前には考えられなかったことだ。

この状況では企業が長期的な展望に立ち、社員が意欲的に働ける環境をつくることは難しくなっている。私のところに寄せられるアウトプレースメントの相談も、企業の生き残りをかけた切羽詰まったものが目立つ。

10年前と大きく異なるのは人員削減の対象である。人員削減というとリタイア目前の世代(50~60代)をイメージしがちだが、今度はそうはいかない。なぜならこの年齢層は10年前の大リストラ時代にかなりのスリム化が図られているからだ。給料が高く働きが悪い層を一気に減らすという一昔前の単純な図式はもう成り立たない。

それでなくとも、この10年で多くの企業が年齢・経験重視型から能力・結果重視型の人事制度に移行した。若年層でも主要ポジションを任せられ、成果に応じて報酬が得られる仕組みとなった。年功序列の組織形態が崩れた今、年配の社員をまとめてリストラしても大きなコストカットの効果は期待できないのだ。このため、年齢の括りを取り払って、個人単位で給与とパフォーマンスのバランスを見て、人員削減の対象を吟味することになる。まさに「あなた個人が給料に見合った仕事をしているか」が問われるのだ。

人員削減を考えるとき、日本企業の多くが希望退職という手段を取る。しかし単純にこの手法を用いると必要な人材まで辞めていき、会社が生き残る体力を失う危険性がある。思い切って社員を大量に減らし、コストカットに成功したところで、残った人材が疲弊しては会社再生の特効薬にはならない。やり方を誤ると会社存続の危機に瀕することになるのである。

企業が人員削減のリスクを最小限に抑えるポイントは(1)削減人数の確保、(2)労使トラブルの回避、(3)コア人材の流出防止、(4)残った人材のケア、の4つである。

まず会社を存続させていくためには何が何でも決められた人数の退職者を確保しなければならない。希望退職の応募期間は長くても2週間が妥当だ。その期間に規定の人数を集めるために希望退職を募る約2カ月前から、企業側が社員一人ひとりと面談し、残ってほしい人と辞めてほしい人おのおのにその理由を説明する機会を設ける。

面談をせずに希望退職を募ると、いざ蓋を開けたときに何が起こるかわからないからである。辞めてほしくない人材も含めて予定より多くの人が殺到し、残ってもらうための説得に奔走しなくてはならなくなったり、逆に人数が足りずに期間が延び、通常業務に悪影響を及ぼしてしまうこともある。

社員との面談は削減人数の確保とともに(2)のトラブル回避のためでもある。トラブル回避のためには、辞めざるをえない人に、話し合いを通じて納得感と共感を持ってもらうことが大事だ。そのためにまず今後どのように会社が生き残っていくのかというビジョンを伝えること。そして、残念ながらその中で果たしてもらいたい役割がないということを説明する。

社員の納得を得るためには経営層、人事が一枚岩となって人員削減をする必要がある。面談では質疑応答のマニュアルを作り、ロールプレーをして何を聞かれても同じように答えられるようにすること。部下を前にすると、上司も長く一緒に働いてきた人間を無下にはできないものだ。社員も人によって様々な事情を抱えている。だからといって面談する上司が情に流されては会社の再生はできない。

「子供がまだ小さく家のローンもあるんです。勘弁してください」と詰め寄られて「上が決めたことだ。俺も散々会社に直談判したんだ。好きでやっているわけじゃないんだよ」などと上司が自分の保身に走り、逃げの姿勢でいては部下が納得できるはずがない。