人員削減失敗の原因となる“パラシュート”とは?

経営陣が一枚岩でないとこんなことも起こる。社員の中には、かつての上司や面倒を見てもらった役員に電話をかけてくる人もいる。電話を受けた専務や常務が人事部長のところに「A君だが、いろいろ事情を抱えているようだから何とかしてあげてくれ。一人くらいなんとかなるだろう」という内線を入れてくるのだ。これを業界用語でパラシュート(上から降ってくるから)と言うが、これでは人員削減が滞る。

人員削減後、企業はなるべく早く立ち直りを図らなければならない。そのため、今後の事業を見据えた組織づくりと適切な要員計画が必要不可欠となる。これを実現するためにも、経営陣も含め会社が一丸となって取り組まなければならないのだ。

もう一つ重要なのは、人員削減の対象となる人に対してこれまでの仕事を否定するようなことを言わないことである。数年前のミスをほじくり返したり、仕事への貢献度が低いなどといったことを今さら話したところで感情的に納得できない。相手はこれまでの自分の人生を否定されているように感じ、揉める原因となる。情報漏洩やマスコミへのリーク、訴訟、ユニオンへの駆け込み、逆恨みや最悪の場合、自殺行為に及ぶ可能性もある。

辞めざるをえない人に、いかに納得感と共感を持ってもらうか。これが企業にとって最大のリスクヘッジとなる。会社側がこれまでの本人の仕事を認めたうえで感謝を示し、勤めてきた時間が決して無駄ではなく有意義なものであったと思ってもらうこと。それが次の人生に向けて本人が再就職先を自発的に探す原動力ともなる。

次のステップに進むためのメンタルケアを怠って「再就職先はアウトプレースメント会社が紹介してくれるから大丈夫」という説得の仕方はすべきではない。再就職はそんなに簡単なものではない。うまくいかなかったとき、逆恨みの矛先はすべて会社に向かう。10年前、それで失敗した会社も多い。企業は細心の注意を払って施策を行っていかねばならないのだ。

次は会社が生き残るための重要な鍵、コア人材の流出防止である。コア人材とは、今後の事業を運営するうえで必要不可欠な人物のこと。このため場合によっては優秀な人でも辞めてもらう必要が出てくる。確かにパフォーマンスを発揮できていることも大事である。しかしその人がパフォーマンスを発揮できているのは、別の誰かや、チームの助力によることもありうる。

すべてのバランスを見ていかなければ、組織の中で緩衝材となってくれている重要な人物や見えざる力となっている部分を失ってしまう。例えば単純に営業成績順に下から10番までを切れば、その営業部隊がよくなるかというと、必ずしもそうではない。次の下から10番が新たにできるだけだ。

人員削減は単に何人減らしたから人件費をその分削減できるという数字の足し引き算段ではない。できるだけ早く会社を再生するために、必要な組織をつくり、そのためには誰がどういう役割を果たすのかを明確にしなければいけない。コア人材には会社のこれから先のビジョンを語り、本人に求めたい役割をしっかり伝えることだ。

最後に残った人材へのケアも忘れてはいけない。人員削減をしたことによって、当然、一人当たりの仕事量も増え疲弊感も生まれる。会社の先行きに不安を感じ「このまま残っていていいのか」という疑問を持つ人も多くなる。

そういう社員に向けて投資家向けの事業再生計画の配布資料を渡したところで意味はない。コア人材の流出を防ぐためにしたように、会社の実情とこれから先の情報をきちんと面談で説明し、そこで期待する役割を社員一人ひとりに丁寧に伝えることだ。

情報量に比例してやる気は高まり、不安はやわらげられる。残った人員で今の苦境を乗り越えられたなら、1年後にはこういう状況に辿り着くという未来を示す。残って頑張ろうと思えるような情報を伝えることがモチベーションの維持に繋がるのだ。

私が人員削減をお手伝いした会社の中に某大手食品会社の子会社がある。その会社は通販業務を主としており社員も当時80名と少なかった。しかし業績が厳しくなり苦渋の決断で人員削減を行った。