「イノベーション不全症候群」はなぜ起きるのか
昨今、誰もが口にする「イノベーション」という言葉があります。もともと経済学者のシュンペーターが唱えた概念で、日本では長く「技術革新」と訳されてきましたが、最近は技術に留まらず、新しい商品やビジネスモデル、社会システムの開発といった幅広い意味で使われるようになったのはご承知の通りです。
われわれKDIは、そうしたイノベーションが陸続と生まれてくる、創造的な組織づくりのお手伝いをクライアント企業向けに行う、富士ゼロックスのコンサルティング部門です。
製造業や、システム・インテグレーション分野のソフトウエア業で顕著なことですが、各社の悩みがまさにイノベーション不全症候群にかかっていること。カラカラの雑巾をさらに絞るように、生産性を極限まで高めたものの、国内、さらにはグローバルの競争は激しさを増すばかりで利益率は下がる一方です。多忙なのに儲からない、目の前の仕事をこなすのに精一杯で、イノベーションを考える暇も体力もない。
景気が悪くなれば時間に余裕ができて、少しは、イノベーションにつながる創造的な仕事に時間が割けるかな、と思っていたら、「残業禁止! 早く帰れ」という状態です。しかも、成果主義が徹底され、現場がタコツボ化し、誰もが上司と握った仕事しかやらない。こんな組織、事業に大きな未来はないでしょう。
体制の問題もあります。日本企業は現場が強いので、イノベーションのアイデアは大抵、現場から上にボトムアップしていきます。そうすると、怖い代官様のような上司がいて、「これは本当にうまくいくのか」と厳しくチェックする。市場のないところから生まれるからイノベーションなのですから、成功の道筋をロジカルに説明できるわけがないのです。結果、革新的なアイデアほど実行に移されず、潰されてしまう。
たまたま他社が同じことを考えていて、大当たりさせると、「なぜうちもやらないのか」と慌てて参入するものの、先行者利益が大きく、二番手以降は儲からない、という、笑えない話になってしまうのです。