企業によっては、トップ主導型で、イノベーションを仕掛けていく姿勢のところもありますが、しょせん、上がってくるアイデアが少ないので、当たり外れが多くなる。それよりも、社内のありとあらゆる部署から、常に斬新なアイデアが上がってきて、その中から精査して実行していくのが本来の姿です。そのためには、チャレンジを褒め称え、特別なインセンティブを与えるといった具合に、社内の仕組みを変える必要があるのですが、そこまで手を打って成功している企業の数は少ないのが現状です。

イノベーションの必要性は痛感しているのに、なぜ起こすのが難しいのでしょうか。この、まさにイノベーションのジレンマを解くには、イノベーションに対する考え方を根本的に変える必要があるのではないでしょうか。

例えば、営業部門で、お客様から「おたくにはAという商品はあるが、最近、うちではBという商品の需要が高まっているんだ。つくっていないのかね」と尋ねられたとします。それに対して「つくっていません」と答える営業が大部分でしょうが、「いまはつくっていませんが、つくれるかどうか検討してみますので、少しお待ちください」と持ち帰って、その声を製造部門に伝える営業がいたとします。それを聞いた製造部門の人がマーケティング部門にも働きかけ、検討した結果、B商品を自社のラインアップに加えたとします。幸い、画期的な商品ができ、競合を押しのけてシェアトップになるかもしれません。これは営業部員のほんの小さな行動が起こしたイノベーションといえないでしょうか。

あるいは、休日に自宅でニュース番組を見ていて、飢餓に苦しむアフリカの子供たちのドキュメンタリーに感銘を受けた人がいました。「日本の子供は恵まれているなあ」と思って終わる人がいる一方で、「うちの会社としてできることはないか」と頭をひねり、翌日、総務部に行って、流通段階で廃棄処分になっているけど、食用には何の問題もない製品をアフリカに寄付できないか、という相談を持ちかける人がいるかもしれません。この人の行動も、イノベーションにつながる、価値ある行動といえないでしょうか。