イノベーションはなぜ起こりにくいのでしょうか。私たちは、さまざまな学問成果を応用して、イノベーション行動を阻害するいくつかの要因を考えました。

ひとつ目は、市場を固定的にとらえることです。マーケティング会社が調査して、「これが市場だ」ととらえているものが市場だと勘違いしがちです。有名なたとえ話があります。「靴を売り込もう」と、アフリカのある国に出かけたセールスマンのうち、ひとりは、人々全員が裸足であることを目の当たりにして、「この国には靴の市場がない」といって帰ってしまった。ところがもうひとりは「靴を履く習慣がない、この国の人たちに靴を売れたら、どんなに大きな市場になるだろう」と、拠点づくりを始めた。もちろん、後者がイノベーション行動の取れるセールスマンです。

ふたつ目は「購買行動は論理的に決まっている」という思い込みです。最近の行動経済学の成果が明らかにしつつありますが、人間が合理的な判断を下せる場面は限られています。品質とサービスが同じなら、値段の安いものが売れるというのは、論理的な思い込みにすぎないのです。

また、組織というものが役割やミッションだけで動くものと思い込んでいませんか。成功のセオリーは一種類だけだと思っていませんか。イノベーションや企業変革は選ばれたエリートの専売特許だと信じていたり、物事はいろいろな蓄積で動いていくものなのに、天才の閃きが大切なのであって、自分にはそんなものの欠片もないと諦めたりしていませんか。

いずれも間違っています。組織はたったひとりの熱意で動きますし、成功という山に登る道がいくつもあるのは歴史を紐解けばすぐにわかります。熱意と信念があって、やり方さえ工夫すれば、誰もが変革を起こすことができるのです。