数々の修羅場をくぐり抜けてきた名経営者たち。自らの生き様を語った言葉から、これからの人生の指針を打ち立てるヒントを得る。

2007年5月、ブックオフコーポレーションの会長だった坂本孝は、京セラ名誉会長の稲盛和夫から突然呼び出された。それは、坂本が創業した中古書籍販売チェーン・ブックオフコーポレーションの売上高の不正計上が、週刊誌に叩かれた直後のことである。

東京・八重洲にあるオフィスに駆けつけるやいなや、「盛和塾でいったい何を学んできたんだ」と一喝された。稲盛の普段の柔和な顔からは想像できない猛烈さだったと坂本は振り返る。

「とにかく恐ろしかった。何をいわれたかも覚えていない。言い訳もできないし。ただ身を小さくしていた。秘書の方が次の約束の時間を告げるメモを何度も稲盛さんに手渡しにきた」

帰りがけに稲盛は坂本をエレベーターの前まで送った。そして、右手を差し出し「がんばりなさいよ。何でも応援するから」と、それまでの怒りからは一転して、やさしく声をかけたのである。その手を握り返しながら坂本は「京セラの社員でもない私をここまで叱ってくれるのか」と胸が一杯になった。

会長職にとどまり、名誉挽回する自信もあった坂本だが、社内の結束は中傷記事でバラバラになっていた。事態の重さを受け止め、6月になって辞任を発表する。幸いなことに、1990年の創業時から、坂本が連帯保証人になるなどして、一緒に苦労してきた加盟店のオーナーたちの信用は少しも失っていなかった。それを支えに、新しい生き方を模索しようと思った。

「そのとき私は67歳。ブックオフの店舗も1000店を超え、事業家としてはやるだけやった気がしていた。ハワイにコンドミニアムでも買って、これからは毎日ゴルフ三昧で悠々自適に過ごすのもいいかなと……」