数々の修羅場をくぐり抜けてきた名経営者たち。自らの生き様を語った言葉から、これからの人生の指針を打ち立てるヒントを得る。
リスク3割以下で攻守のバランス
ソフトバンクという会社には、常に成長・拡大しているイメージがある。創業以来一貫して「情報革命を通じた人類と社会への貢献」を標榜しながら、積極的な新規事業への参入、思い切った企業買収を立て続けに行ってきた。その意味で創業社長の孫正義は実業家と投資家の2つの顔を持っている。
では孫は、どのような条件とタイミングで決断するのか――。ジャパン・フラッグシップ・プロジェクト社長兼CEOの三木雄信は“7対3の法則”を挙げる。三木は1998年、孫の秘書としてソフトバンクに入社。右腕として一時も孫から離れず、その謦咳に接してきた人物だ。
そこで孫が投資に当たっていつも口にしていたのが、「5割の確率でやるのは愚か。9割の成功率が見込めるようなものはもう手遅れだ。7割の成功率が予見できれば投資すべきだ」である。三木に孫の意を解説してもらうと、次のようになる。
成功率が半々というのは、事業化そのものが時期尚早の可能性があり、失敗という最悪の事態に陥りかねない。だからといって9割の成功率だと、すでに誰かが同じことを考えている恐れが十分にある。結局、そうしたことを考えると、勝負を仕掛けるのは、成功率7割が確信できたときが望ましい。
「裏を返せば、3割超リスクを取らないということ。ソフトバンクは“リスクテイカー”と思われがちだが、実は違う。孫社長は、その投資に失敗して撤退・清算をすることになっても、グループ全体の事業価値の3割を超える損失が出ないようにしている」(三木)
この“攻めと守り”のバランス感覚が孫の決断の凄さだと三木は見ている。いわゆる“勝負勘”とか“投資勘”だけで決断しているわけではない。孫は、事前の適切な情報収集と幅広い資金調達という“裏付け”が揃ったうえで慎重に投資を行っているのだ。
95年にヤフーに出資した際、孫は「地図とコンパスがあれば、さっと宝を見つけて1日で帰れるわけですね」ともいっている。その直前にアメリカの展示会運営会社のコムデックスとコンピュータ関連出版社のジフ・デービスを買収しており、この2社がそれぞれ「地図」と「コンパス」の役割を果たした。