数々の修羅場をくぐり抜けてきた名経営者たち。自らの生き様を語った言葉から、これからの人生の指針を打ち立てるヒントを得る。
すべてを受け入れる素直さが肝心
パナソニック(旧・松下電器産業)を一代で築き上げた松下幸之助は、多くの言葉を残した。ランキングは松下政経塾で講話したなかから選んだもの(図を参照)。第1位の「素直」とは、与えられた条件や環境を、すべて受け入れるという意味。そのたとえでよく使ったのが、第3位の「秀吉」である。
幸之助の考え方は自らの体験、数々の苦難を乗り越えてきた経験に裏打ちされたものだから、その言葉には重みがある。たとえば終戦直後、松下電器は2億円を超える借金を抱え経営危機に陥るが、幸之助は次のように社員を激励している。
「人間は死に直面して初めてその苦しさから真理をつかみ、生への悟りを拓くものと聞いている。(中略)窮するのあまり、物に心を奪われてはならない。常に至誠に立ち、物にとらわれない精神をもって押し進むべきである」
その後もGHQの財閥指定を受けるなど、幾多の危機を克服し会社を復興させた。パナソニック社史室主幹の中西雅子は「松下幸之助はことあるごとに“難局は発展の好機”ということを語っていて、発想がポジティブ、プラス思考だ」と話す。
一方で、幸之助は厳しかった。よく社員を叱り飛ばした。「しかし、大きな失敗をした人間には怒らず、励ました。本人が反省しているからだそうだ」(同)。
失敗といえば、有名な言葉が「5年かかろうが10年かかろうが、成功するまでやめない」である。しかし、別の場所ではこんな発言が。「100年やっても成功しない、1000年やってもダメだというものもある。(中略)成功の秘訣は成功するまでやめないことだと聞いて、そのとおりやっていたら、いわゆるバカ正直になってしまう」。
矛盾していると早合点してはいけない。幸之助は「見極め」が必要で、それには「英知」を働かせよと続けている。つまり何ごとにも志、熱意を持って取り組み、簡単には諦めるなということなのだ。
(敬称略)