自分の心が変われば会社も変わる
そんな坂本が稲盛に初めて会ったのは95年のこと。ブックオフの経営も軌道に乗り始め、経営者としてさらに成長しようと、さまざまな経営学や経営思想に関する本を読んだり、経営セミナーに参加したりした。そのなかに稲盛の著書があった。
「とりわけ強く印象に残ったのが“利他の心”だった。人のために汗をかく、人によかれと思うことを行うこと。本に書かれている稲盛さんの理念は明快で、ぜひ講演を聞きたいと思い、盛和塾に入ることを決めた」
稲盛を塾長に、彼の経営哲学を学ぶ盛和塾。その白眉は塾長例会での経営問答だ。ここでは、何人かの塾生の質問に稲盛が答える。ある例会で坂本は、稲盛が「京セラフィロソフィの『経営12カ条』を一生懸命に真摯にやり抜けば、京セラぐらいの会社は誰でもつくれる」と語ったのを耳にした。
ブックオフと京セラを比べれば、まだ遥か先の目標かもしれないが、坂本はこの言葉に勇気をもらった。とりたてて難解な条文が並んでいるわけではない。坂本が特に好きなのは「誰にも負けない努力をする」で、京セラ発展の要素は全部ここに盛り込まれているそうだ。
「あのときは、もう頭がガーンとなって、経営観、いや、人生観が変わった。塾長のいうとおりにやっていけばいいと。実際、自分の心が変わると、会社が変わってくる。私は社員の成長を願い、フランチャイズの事業を通して皆さんが幸せになるように取り組み始めた」
坂本は自著の『俺のイタリアン、俺のフレンチ』に「私のビジネスの発想の陰には、常に『稲盛和夫』なる人物がおります」、そして「彼のいっていることを中小企業で実践するということで稲盛氏に一番近い男だと自負しています」と書いている。