15カ月待ちの大ヒット商品を開発

ちょっとした調理好きなら、究極の無水調理ができる鋳物ホーロー鍋「バーミキュラ」をご存じだろう。無水調理とは、水を使わず、あるいはごく少量で、野菜や肉など素材の持つ水分を利用して調理する方法を指し、素材本来の味やうまみを引き出す。

素材の水分を利用するには焦げ付きにくい鍋の厚みと、蒸気を逃がさない重さと構造のふたが必要だ。そのため、密閉性の高いアルミやステンレス製の金属鍋や、重さのある鋳物ホーロー鍋が使われている。鋳物ではフランス製のル・クルーゼやストウブなどが有名だ。

土方邦裕・愛知ドビー社長

2010年、日本でこの無水鍋の世界に突如、新星が現れ、瞬く間に大ヒット商品となった。それがバーミキュラである。これまで販売累計は20万個を突破、一時は15カ月待ちというほどの品薄となり、生産力を増強した今もオンラインショップ上では7カ月待ち、全国百貨店内の店舗(25店)や家電量販店でも3カ月以上の入荷待ちの状態だ。

バーミキュラは職人の手作業によって厚さ3ミリの鋳物鉄の鍋とふたを0.01ミリの精度で30度の円錐形状に加工し、高い密閉性を持つ。また、内面は新開発のグラスコートで耐久性も高い。鋳物ホーロー鍋をミリ単位で成形することは容易ではなく、鍋とふたの間に隙間ができやすいが、バーミキュラは後述するような開発努力で高い密閉性を実現した。

この大ヒット鍋を開発したのは、名古屋市に本社を置く愛知ドビーだ。1936(昭和11)年創業で、もともとはドビー織という織物を作る織機を製造していたが、繊維産業の衰退後は、産業用機械の部品を鋳造し加工する下請けとして生きてきた。

しかし、次第に注文が減る中、債務超過状態に陥った同社を3代目社長の土方邦裕(42歳)は、弟で副社長の智晴(39歳)と二人三脚で再建に乗り出した。その結果、バーミキュラを3年かけて生み出して、大ヒットさせ、愛知ドビーを成長軌道に乗せた。

2001年に邦裕が入社したときは売り上げ2億円、従業員20数名だった町工場が、今では売り上げ16億円(2015年度)と8倍になり、従業員は160人に増えた。売り上げ好調のため、人員を増強中で2017年3月には200人になり、2016年度の売り上げは50億~60億円を見込むまでに成長している。