400年の歴史を持つ仏具、茶道具など伝統工芸品の高岡銅器から、ユニークな製品が生まれた。錫100%で、自在に曲がる器『KAGO(カゴ)』だ。軟らかすぎて製品化が難しかった錫の特性を逆手にとって製品化に成功した株式会社能作は、現代的なデザインを取り入れた錫製品で世界に進出している。
不思議な錫の力を活かした器
錫は不思議な金属である。金や銀に次ぐ高価な鉱物で、酸化しにくく抗菌作用が強く、金属アレルギーにもなりにくい。科学的には明らかではないが、錫の器に入れた水は腐らないとか、水や酒がまろやかになっておいしくなると言われており、古くから酒器や茶器に使われている。
筆者も錫100%の「ちろり」を使っている。ちろりとは、湯煎にかけて熱燗を付ける酒道具で、よく屋台のおでん屋がおでん鍋に入れて燗を付けている。錫のちろりは、確かに熱燗をおいしくするだけでなく、冷酒を入れてもいいし、見た目も美しい。
これをつくったのは富山県高岡市に本社を置く株式会社能作だ。高岡市は加賀藩主の前田利長が7人の鋳物師を招いたことから、鋳物の町として栄え、仏具や茶道具、花器など400年の伝統を保つ高岡銅器へと発展した。
能作は大正5(1916)年の創業で、仏具づくりから始まり、近年では現代的デザインのテーブルウェアやインテリア雑貨、照明器具、建築金物まで手がけるようになっている。国内には8店舗の直営店を持ち、2014年12月にはイタリアのミラノに出店を果たした。フランスで有名デザイナーのシルビー・アマール氏と組み、ホテルやレストラン向けに販売する食器『シルビーライン』シリーズも人気になっている。高岡銅器の伝統を活かして、世界に認められたのだ。そして、これらの製品の70%が錫を材料に使っている。
能作社長の能作克治(57歳、以下は克治)はこう語る。
「もともと、当社は生地屋(きじや)と言って、仏具や茶道具などの鋳造加工を行い、そのまま問屋に出荷していました。これが伝統的な高岡の商習慣で、問屋が外注を使って、研磨、彫金、着色して製品化し、梱包して販売するのです。だから、生地屋は技術を売るだけ。相手はいつも問屋で、最終的な商品もお客さんも見たことがなかった。しかし、自分たちの技術に自信を持つようになり、実際に商品を使って下さるエンドユーザの顔を見たい、声を聞きたいと思うようになったのです」
要するに問屋の下請けだった能作が、克治の思いから自社ブランドの製品を開発する中で、誠実に努力しながら花を開かせたのだ。当初は海外どころか国内の販売ルートの当てもなく、どうやって小売りをしていいのさえ、わからなかったが、克治の強い意志と行動力、そして同社の高い技術力が成果をもたらしたのである。