料理がおいしくなる鋳物ホーロー無水鍋、自然派マニキュア、お洒落な紙雑貨……。下請けからの脱却を目指し、または老舗メーカーが新機軸を築くために、既存の技術や設備など“自社のバリュー”を生かして名物商品を開発した事例を紹介する。
依頼を待つばかりの下請け企業が生き残る道とは
国内の景気が悪いからといって闇雲にグローバル化を推進するのではなく、自分の会社の技術や強みは何か、足元から徹底的に見直す。そして、設備や技術など自社がすでに持っている“バリュー”を生かし、見事ヒット商品を生みだした中小企業がいま、元気だ。
たとえば、2010年の発売直後から注文が殺到し、現在も「納品まで15カ月待ち」というほど人気の鋳物ホーロー鍋「バーミキュラ」。愛知県名古屋市の「愛知ドビー」の商品である。鋳物ホーローの保温性および遠赤外線効果と、水を加えず食材の水分だけでうま味を引き出す「無水調理鍋」の機能を併せ持つため、「他の鍋より格段においしく作れる」と大ヒットした。
愛知ドビーは創業76年と歴史は長いが、社員とパート合わせて数十人の、いわゆる「町工場」。かつて愛知県は繊維産業が盛んだったため、社名通り「ドビー織り」という模様を作る繊維機械のメーカーだった。しかし繊維産業の衰退とともに、建設機械などの部品を鋳造して、それに機械加工(削る・穴を開ける等)を施して仕上げる、鋳物部品の加工に社業の軸足を移す。
「要するに、依頼がなければ仕事はない下請けです。景気のよかった時代はそれでいいですが、近年は厳しい状況でした。ですから、大手企業に頼らなくても生き残っていけるよう、弊社はもう一度、商品を自分たちでイチから企画して製造販売できる“メーカー”になる、と決意したんです」と同社社長・土方邦裕氏は語る。豊田通商の財務部門で為替ディーラーとして働いていた邦裕氏が「半ば父に騙されて」家業を継いだのが01年。傾いた会社を立て直すために、まずは自社の技術をきっちり把握しようと技術者として基本から学んだ。
「技術書の本を舐めるように読みつくし、社外の諸先輩方にも教えてもらって勉強しました。そのうちに、弊社に特別な技術はないけれど、最大の特徴は、鋳造と機械加工の両方ができることだということがわかってきました」