世界を相手に日本の中小企業の強さを存分に見せてくれるのが、東京都に本社を置くアタゴである。食べ物や飲みものに含まれる糖分や塩分などの濃度を測定する屈折計において、アタゴは世界ブランドである。海外154カ国以上に輸出する同社の雨宮秀行社長に聞いた。

海外代理店1200社と取引き

雨宮秀行・アタゴ社長。

海外に進出する強い中小企業では、よくドイツの例が挙げられるが、海外といっても彼らにはEUという恵まれた統合市場がある。

だが、アタゴは違う。アメリカ、インド、タイ、ブラジル、イタリア、中国、ロシアに支社・販社を持ち、世界154カ国以上に輸出、取引きする海外代理店の数は1200社を超える。海外売上高比率は60%以上。売上高が20億円台の規模で、一切商社も使わず、これほどグローバルな販売ネットを自社で築き上げた企業は世界でも稀だろう。

アタゴが扱う製品は屈折計だ。一般には知られていないかもしれないが、食品や飲料メーカーの製造現場では必須の計測器である。食べ物や飲み物に含まれる糖・塩・酸・タンパク質などの濃度を測定する装置で、携帯・ペン型の小型屈折計から高精度のデジタル屈折計まで多種多様である。

主力製品の「ポケット糖度・濃度計」だけでも、ハチミツ水分から干物の塩分計測用まで100種類を超える。まさに食品・飲料の数だけ種類があると言っていい。海外にも競合会社はあるが、小型の屈折計ではアタゴは強さを発揮している。国内シェアは90%、海外シェアは30%を占める。率先垂範で海外ネットを築き上げてきた3代目社長の雨宮秀行(44歳)はこう語る。

「海外進出はリスクがあると中小企業の経営者は言いますが、大したことはありません。これまで中国とヨーロッパ相手に2回ほど失敗したことはありますが、その後、リベンジして現地の拠点を立ち上げたので決して無駄ではありませんでした」

1940年創業のアタゴは、53年に世界初の手持屈折計を開発、50年代後半には早くも輸出を始めた。76年には世界初のデジタル屈折計を開発、86年には世界最小のデジタル糖度計を発表し、小型化とデジタル化では世界をリードしてきた。

世界進出と言っても海外で安く製品を作ろうという考えはない。全て、埼玉県の深谷市と寄居町にある工場で生産、海外は販売だけだ。実はかつてブラジルでノックダウン生産を試みたこともあるが、品質が維持できずあきらめたことがある。

アタゴでは単に世界共通の標準品を作っているわけではなく、世界のユーザーのニーズや嗜好、使用環境・方法などによってカスタマイズしている。例えば、どんなサンプルを測るかわからない地域や国では、酸・アルカリ・高温に耐えられるボディや塗装にしたり、アメリカ人はボールペンでシートパネルのボタンを押すクセがあることから、シートを強化するなど実に細かい改善を絶えず行っており、海外生産ではそうした対応が難しい。