経営者自ら海外の代理店を開拓
全品輸出では円高の時に為替差損が生じるが、アタゴは代理店との取り引きを円建てにしている。現在では取り引きの8割が円建てだ。
「最初は代理店に嫌がられましたが、粘り強く交渉して理解してもらいました。これまでお互いに協力し合ってきた関係があるので交渉に乗ってくれるのです」と雨宮は言う。
こうした関係は雨宮自身が築いてきたものだ。雨宮が1994年に24歳でアタゴに入社し、当時、経営者だった父の了解を得て、貿易課を海外部に格上げした当初、海外の代理店は30社程度だった。海外展開が自分の役割だと自覚していた雨宮は、27歳の時に既存および新規代理店の経営者やユーザーを訪ねる47日間世界一周の旅に出た。実際に会って話してみなければ何も始まらないというのが雨宮の基本的な考え方だ。代理店とは会ってフィーリングが合わなければ取り引きしないという。
「一瞬で判断できず、第三者に相談しているような経営者ではダメです。また、社長室には社長のセンスが現れ、レベルの高い会社のオフィスは整理整頓されていて、社員もきびきびと動いています。社長室とオフィスを見れば、取り引きできる会社かどうかわかります」
こうして、信頼できる代理店を開拓し、1200社まで増やしてきた。だが、これだけの社数をアタゴ本社でコントロールするのは限界があったため、各地で最も信頼できる代理店社長に拠点長を任せ、支社・販社を設立してきた。アメリカ支社のみ雨宮の弟がトップを務めるが、それ以外はすべて現地の人間に任せている。インド販売社だけでも160社を超える代理店を抱えており、どの代理店の社長に任せるかは大きな問題だ。
「海外進出に当たってはなんと言っても現地の人次第。人材の選び方さえ間違えなければうまくいきます。ただ、3年ほど経つとお互いに夢やビジョンのギャップが出てきます。その度に会ってお互いに修正することが大事。私は相手にも自分にも求め過ぎる方ですが、あまり求めすぎない方がうまくいくことが最近分かってきました。そのさじ加減は業績などの数字で判断できることではなく、会って話すアナログ感覚が重要です」
任せた以上、基本的には細かい口出しはしない。もちろん、冒頭の発言のように雨宮にも失敗はある。中国企業と合弁を立ち上げようとしたとき、相手の経営者の真意を見誤って白紙に戻したことがある。
「失敗はいいんです。そのとき、取り引きできるなと思える相手が見つかったら、まず商売を始めて、うまくいかなければ3年で契約を解除すると決めておけばいい。海外に出たいのなら、経営者自身がその国に行って、甘えられない状況に自分を追い込むことが肝心です」