保守的な印刷業界にあって、横浜リテラはまさに風雲児とも言える大胆さで関係者を驚かしている。これが印刷工場かと目をみはるクリーンルーム工場を2009年に建設し、誰もが反対する中で、時代の先端を行く印刷企業に成長させた星野匡社長に聞いた。

医薬品工場水準のクリーンルーム

星野匡・横浜リテラ社長。

「印刷業界の常識は、社会の非常識だと思っていました。印刷業界は構造不況で苦しいと愚痴を言う経営者も多いが、ダメだと思ったら自分を、自社を変えるしかないんです」

横浜リテラ社長の星野匡(ただし、55歳)は、よどみなく言い切った。

同社は、食品、医薬品、化粧品などの二次包装を中心に、ポスターパネル、ディスプレイやPOP、販促ツールなどの商業印刷を手がけている。二次包装とは包装された製品をさらに納める箱などのパッケージを指す。企画からデザイン、制作、印刷、製函、梱包、配送まで一拠点一貫生産で行う総合サービスを提供するのが同社の特徴だ。

2013年に創業80年を迎えた歴史ある企業だが、インキの臭いが漂う工場を想像すると面食らう。そこには、頭からつま先までクリーンウェアに身を包んだ従業員たちが清潔感あふれる工場内で整然と作業をしているからだ。2009年に社運をかけて同社が建設した工場は、浮遊塵埃数30万クラス(1立法メートル中に0.5マイクロメートルのホコリが30万個以下)という医薬品や食品加工工場水準のクリーンルームである。これは印刷業界で初の快挙だった。

天井からは滅菌処理された水が定期的に噴霧され、空調システムによって一定の温度と湿度に保たれている。印刷用資材や製品は生産管理システムによって動く無人フォークリフトによって自動搬送され、作業完了ごとに次工程に運ばれるので、仕掛品や半製品が作業エリア内に放置されず、工場内はすっきりしている。

09年当時従来比の2倍のスピードで印刷できる最新鋭の印刷機も導入した。6色の刷版がたった2分以内に自動交換可能で、0.3mmまでのピンホールをチェックできる高性能品質検査装置も備えた。併せて、巨大な資材用の立体倉庫も建設。バーコードを使ってコンピュータ制御で管理された無人フォークリフトが自動搬送する。こうした最先端技術の導入で効率化が進み、製造原価は10%も改善された。

「クリーンルームにしたところで、単価が上がるわけでもないのに、建設費用は当時の売り上げ規模に匹敵する30億円でしたから、父や経営幹部はそろって大反対でした。しかし、それまでの工場の無駄は目に余り、それを省けば投資の原資になり、利益になると考えたのです」と星野は語る。