反省はしても後悔はしたくない

雨宮の肝が据わっているのは、若いときに海外で死と隣り合わせの経験をしたことがあるからだ。雨宮はアタゴの創業者である祖父に可愛がられ、何不自由なく育ったが、大きくなるにつれて温室のような環境に居続けることに危機感を持った。

高精度のデジタル屈折計。

そこで、国外脱出を図り、大学はアメリカのネバダ州立大学に入学した。入学まもなく、現地で中古車を手に入れ、メキシコまで旅すると、「どうせなら世界一過酷な環境に飛び込んでみたい」と思った。雨宮が選んだのがサハラ砂漠の横断だ。

だが、想像以上におそろしい世界だった。初っぱなからモロッコで窃盗に遭い、大切なコンパスを盗まれ、それでもヒッチハイクと徒歩でサハラ砂漠の入り口にたどり着いた。水筒とパンを携えただけという無謀さで、やがて塩分不足のため熱けいれんを起こして倒れてしまった。そのまま助けがなければ死んでいただろう。偶然にも遊牧民のベルベル人が通りかかり、ゆで卵と塩をくれて、九死に一生を得た。

それで怖じ気づくことなく、さらに2回目はアフリカ旅行に挑み、タンザニア、モザンビーク、マラウイなどで危険と隣り合わせの旅をした。現地のゲリラに殺されても誘拐されてもおかしくはなかった。

「この体験で、どんなことがあっても何とかなるという根拠のない自信が生まれました。あの喉の渇きにまさる苦しさはありません」

雨宮はその頃、会社を継ぐつもりはなかったが、留学中に祖父が病に倒れ、見舞うために一時帰国した。病床の祖父から会社を継いでくれと頼まれて、雨宮は3代目になる決意を固めた。

雨宮は今、「100年企業」を目指している。今年創業75周年を迎え、あと25年で100年だが、2012年、長年本社ビルのあった東京都板橋区から最新の制震構造を備えた港区の高層ビルに本社を移した。その理由は100年企業を目指して、東京直下型の大地震が発生しても事業を続けられるという思いからだ。

「もし、その時が来て、万全の手を打っていなかったと後悔したくないからです。反省はしても後悔はしたくない。なぜなら、後悔は過去に向かい、反省は未来に向かっているからです。私はいつも未来を見ていたい」

さらに、アタゴは前進し続ける。(文中敬称略)

株式会社アタゴ
●代表者:雨宮秀行
●創設:1940年
●業種:科学機器(主として屈折計)の開発・製造・卸販売並びに輸出業
●従業員:224名(うち海外77名)
●年商:24億8000万円(2014年度)
●本社:東京都港区
●ホームページ:http://www.atago.net/japanese/
(日本実業出版社=写真提供)
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