箱やパッケージなど厚紙の印刷・加工を手がける典型的な印刷加工工場だった福永紙工は2代目社長・山田明良の手で、デザイン性の高い紙製のオリジナル製品を企画・制作する会社に生まれ変わった。紙を網状に加工して物を包み込むことのできる「空気の器」などヒット商品を連発している。

印刷技術で作り上げた「空気の器」

印刷業界の90%以上は中小零細企業である。もともと体力がない中で、印刷がデジタル化されて、印刷物の需要が激減し、価格競争が激化してきた。ちょっとしたチラシなら、パソコンとプリンターで作れる時代である。こうして、印刷業界は長く苦しい不況の時代に入り、今も苦しんでいる印刷工場は多い。

紙を網状に加工して物を包み込むことのできる「空気の器」。

立川市にある福永紙工も同じだった。

「当社は厚紙にスジや切り込みを入れたり、穴を開ける型抜き技術が得意なのですが、こうした技術を正当に評価されにくくなっていると感じました」と、同社社長の山田明良は言う。

それならば、こうした印刷技術を作って何か面白い物ができないか。山田が模索する中で、デザイナーなどのクリエイターたちと出会い、2006年に「かみの工作所」というプロジェクトがスタートした。その中から、デザイナーとの共同開発で生み出したのが2010年に販売した「空気の器」である。

これは、直径20センチほどの1枚の円形紙を網状に精密加工し、外周をつかんで引っ張り上げたり、伸ばすと空気を包み込むように自由な形を作ることができる。インテリアとしてだけでなく、ワインボトルなどビンのラッピングにも使える。紙の表と裏で色が違うため、見る角度によって色彩も変化して、目を楽しませてくれる。これは、まさに同社の型抜きの技術があって生まれた物だ。山田は「型の製作と抜きには苦労しました」と語る。

3枚組で1200円(税抜)。ミュージアムショップやインテリアショップ、百貨店などで売られている。東京で開催された国際見本市「インテリアライフスタイル展」に出展したことから、海外でも評判を呼んだ。

これをきっかけに紙製のオリジナル製品の販売が拡大し、「1/100建築模型用添景セットシリーズ」(以下、添景セット。詳細は後述)、アルバムなどのステーショナリー、アクセサリー、インテリア、ゲームまでさまざまな紙製品を企画・販売している。

2013年に発売し、最近ジワジワと人気が出ているというのが、紙コップで作った「トータス」というゲーム。これは、コップの裏に数字のメンコがはめ込んであり、トランプゲームの「神経衰弱」のように、ひっくり返しながら数字を足して10になれば、コップを獲得できる遊びだ。シンプルだが、子供から大人まで遊べて獲得したコップを積み上げるのが楽しい。

現在では、同社製品は国内約300店舗、海外100店舗で販売されるほどになり、同社の売り上げのうち、かみの工作所関連が4割以上を占めるという。