1/100スケールの添景セットがヒット
07年、萩原のつくし文具店で「かみの道具展」を開催。三星が作った紙のメガネやワックスペーパーで作ったファイルなどを展示した。すると、予想以上の評価を得た。
翌08年、萩原の紹介で建築家の寺田尚樹と知り合った。寺田は仕事で使っている建築模型を発展させたキットを作っていた。これが、「添景セット」である。
添景セットは建築模型の背景などに配置されるパーツで、人物や樹木などのミニチュアである。サイズは本物の1/100だ。寺田はそのバリエーションを増やし、さまざまな動きをした人物や動物、恐竜、都市の街並み、住宅、オーケストラ、工事現場などのキットを作った。忠臣蔵の松の廊下を再現したキットまで出しており、現在までにおよそ60種類のデザインを寺田が行い、福永紙工が製造と販売を担っている。値段は1500円(税抜)だ。
毎月1種類の新製品を発売しており、根強いファンが多い。
10年には、六本木のAXISで展示会を開催、前述した「空気の器」を発表して話題となった。ちなみに、空気の器はトラフ建築設計事務所とのコラボレーションで生まれた。
三星は2014年11月に8年近く務めたデザインディレクターを後進に譲った。退任の弁では「全体のまとめ役ではなく、ひとりのデザイナーとして福永紙工ならびに『かみの工作所』に参加したいという想いが年々強くなってきた」と述べている。
これは、かみの工作所に参加しているデザイナーや協力者たちがいかに楽しんでやっているかということの証だろう。実はかみの工作所を立ち上げたとき、当然ながら協力してくれるデザイナーたちに支払う資金がなかった。そのため、作った製品が売れた分だけ支払うロイヤリティー契約にしてもらった。
その代わりに山田は、新作展示会を開催する度、担当したデザイナーを国内・海外の店に売り込むように努力した。また、どの店でどれほど売れたのか販売データも詳細にデザイナーに伝えて、ロイヤリティを支払っている。
こうしたきめ細かな信頼関係づくりと共に、デザイナーにとっても福永紙工の技術を使っていままでにない製品を作る喜びがあったから、続いているのだろう。
デザイナーを活用した新製品開発は誰もが思いつくが、デザイナーとの信頼関係を維持し続けるのは容易ではない。山田は、そうした場を作り出す能力に長けているのだろう。かみの工作所はさらに面白い商品を作ってくれるだろう。
(本文中敬称略)
●代表者:山田明良
●創業:1963年
●業種:オフセット印刷、紙器、紙工品、打抜加工品、パッケージ、包装用品などの製造販売
●従業員:42名(パート含む)
●年商:非公開
●本社:東京都立川市
●ホームページ:http://www.fukunaga-print.co.jp/