世界の自動車業界がガソリンから電気自動車にシフトしつつある中、画期的な4人乗り超小型電気自動車が、日本で生まれた。開発したのは、スズキ、トヨタで自動車開発に携わってきた鶴巻日出夫社長。わずか220万円の資金を元手に、たった1人で開発を始め、タイでの量産にこぎ着けようとしている。

緊急時に水に浮く世界最小4人乗り自動車

鶴巻日出夫・FOMM社長

気軽に短距離を走れる「超小型モビリティ」が注目を集めている。国土交通省でも自動車メーカーなどの協力を得ながら実証実験を行っている。ところが、これらの超小型車は1~2人乗りである。FOMMを創業した社長の鶴巻日出夫(54歳)は「ドアもクーラーも付いた4人乗りの超小型EV(電気自動車)を作りたいと思った」と言う。

「自宅から駅や買物などの短い距離、いわゆる“First One Mile”を運転するのにふさわしいMobility(モビリティ)を世の中に提供したいという想いを込めて、社名を『FOMM』にしたのです」と鶴巻は言う。

そして、世界最小クラスの4人乗り超小型EV『FOMM Concept One』(フォム・コンセプト・ワン=以下、Concept One)は生まれた。2014年2月に試作1号車が発表され、現在4号車となり、ほぼ完成形に近づいた。

Concept Oneは、全長約2.5m、全幅約1.3m、全高約1.6mというコンパクトさにも関わらず、運転席に乗ると意外とゆったりしている。というのも、足下はブレーキペダルのみで、ハンドル周りにアクセルレバーを配したことで、室内空間を広く取ることができたのだ。ペダルはブレーキしかないので、高齢者でも踏み違えることはなく安心だ。

エアコンはオプションだが、電動コンプレッサー式の本格的なエアコンを用意している。小型EV向けのエアコンはこれまでなかったので、大手メーカーと共同で開発した。

前輪のホイールにモーターを内蔵したFFインホイールモーターで、高効率かつ応答性の高い走りを実現。実際に試乗してみると、加速もよく、軽快に走れる。ブレーキを踏むと、回生装置が作動し、運動エネルギーを電気エネルギーに変換して回収するので、バッテリー消費を抑えられる。

バッテリーは着脱可能なカセット方式で、4個を直列でつなぐ。フル充電で航続距離は約150km(JC08モード)、エアコン稼働時では約100km走る。ガソリンで換算すると、燃費は1リッター当たり約100kmと、環境に優しい省エネタイプである。

Concept Oneにはもう一つ、すごい特技がある。なんと水に浮き、しかも水上を移動できるのだ。ドアなどから一切水が入らないような設計で、タイヤホイールがスクリュー状になっており、水を吸い込んで、後ろに吐き出すことで水上を前進できる。