便を「はじいた」ので「波自賀村」
日本唯一のトイレ総合メンテナンス会社であるアメニティの社員たちは全員、ビジネスネームを持っている。すべて、トイレにまつわる名前だ。社長の山戸伸孝(47歳)は「波自賀村跳男」(はじかむらはねお)である。
命名したのは山戸の父にして創業者の里志(さとし)である。その由来はなかなか興味深い。『播磨国風土記』にはこんな神話が書かれている。大汝命(オホナムチノミコト=大国主)と小比古尼命(スクナビコナ)の間で「粘土を担いで行くのと、糞を我慢していくのと、どちらが先に行けるか」というおバカな我慢比べ論争になった。実際に試したところ、大汝命が先に我慢しきれず、用を足し、それを笹が弾き上げて服についた。便を「はじいた」ので、この地を「波自賀村」(はじかのむら)と呼ぶようになったという。それに「跳男」を付けたわけだ。
社員の中にはもっとダイレクトに「おまる」という名前もあるらしい。いずれにせよ営業場面などではその話題で盛り上がって、効果抜群だという。
「先代(里志)が全員のネーミングをしたのですが、ネタとしては最高です」と山戸は笑う。トイレメンテナンス業を創始した創業者らしい発想力だ。
トイレ診断士という資格も
トイレというと、なんとなく笑いを誘うが、アメニティのビジネスは真剣そのものである。山戸は「便器には一つずつ顔がある。だからこそ、トイレの医者であるわれわれトイレ診断士が診て、処方を提示します。最終的には治療とその後の健康管理もお手伝いするのです」と語る。
トイレ診断士とはアメニティが1997年から独自に始めた社内資格制度で、トイレの問題を科学的に分析し、対処できる技能と知識を身につけている専門家だ。
顧客から依頼を受けると、必ずトイレ診断士がトイレ室内、便器などをチェックし、臭気の濃度や種類を検知器で調べ、その発生源を特定し、さらに換気や排水管の状況、雑菌の度合いなども確認、汚れや臭気を根源から取り除いた上で、汚れにくいように予防処置を施す。便器表面だけを磨くトイレ掃除とは別の次元だ。
アメニティのサービスは「アメニティネットワーク」というフランチャイズ(FC)によって全国展開され、現在、60社が加盟、北海道から沖縄までカバーしている。全国規模でこうしたトイレ総合メンテナンスを行う企業はアメニティだけだ。