お姉さんはきれいだけどトイレは汚い

画期的な尿石防止剤「ピピダリア」の開発に成功。

アメニティを創業した父の里志は、もともと経営コンサルタントの会社に勤務していたが、当時の社長から新事業を興したいと相談され、何をするべきか悩んでいた。そんなとき、ある高級クラブに飲みに行き、トイレに入ってふと気付いた。

「お姉さんはきれいだけど、トイレは汚い」

昔はせいぜい、ナフタリンがトイレにつり下げてあるだけで、その臭いが鼻についた。里志はもっとましな芳香剤はないのかと思い、メーカーを回ったが、誰もやる気がない。

そこで、海外から15分ごとに自動噴霧する芳香剤を輸入し、販売して交換する商売を始めた。昼はコンサルタント、夜は飲食店を回って芳香剤売りの毎日。次第に、顧客が増えていった。

無理な拡大は望んでいない

商売になると見た里志は、新事業を譲り受け、コンサルタント会社を退社。1975年に東陽商会を設立、トイレ事業を始めた。芳香剤や尿石防止剤のレンタルがメインだった。

89年にアメニティを設立し、トイレ総合メンテナンス事業のフランチャイズ化を始めた。里志の熱意に共感する人たちが少しずつ集まり、トイレメンテナンスの意味が世の中に理解される共に、羽田空港や高速道路公団(当時)、JRなどから仕事が入るようになった。

94年には画期的な尿石防止剤「ピピダリア」の開発に成功した。それまでの防止剤は便器内の環境を酸性に変えて尿石となるカルシウム化合物の生成を遅らせる酸系薬剤だった。しかし、時間を遅らせるだけで、結局は尿石化を避けられない。

一方、ピピダリアは尿石が生成される化学変化を阻害する成分を含んでおり、尿石の発生をほぼ防げる。しかも、この成分は無害で環境に負荷を与えない。

薬剤メーカーと共同開発した世界初の商品で、特許も取得している。薬剤ケースには古紙を使っており、尿の跳ね返りを吸収する構造が花のダリアに似ていることから、ピピダリアと命名された。ピピはフランス語で小水の意味だ。ピピダリアは顧客の支持を得て、現在、月に2~3万個を生産するが、市販はされていない。

「トイレは薬剤をただ入れておけばいいわけではありません。人の手があってきれいさを保てる。お客さまは薬剤がほしいわけではなく、トイレの衛生的環境を求めているのです」と、山戸はトイレへのこだわりを語る。

97年からトイレ診断士制度を開始。当初は営業活動の一環だったが、汚れや臭気の数値化を通して顧客に裏付けのある事実を伝えるという意味で、アメニティのサービスの土台となった。こうして、大手企業の信頼も得て、取引が拡大していった。

しかし、山戸は無理な拡大を望んでいない。

「無理な数字は追わない、敵を作らない、成長の種まきを怠らないことをモットーとしています。世のために働きたいという社員やFCが自然に増えていけば、結果的に売り上げも増えると考えています」

トイレの清潔度は、その企業の風土や文化にも関わり、成長の1つのキーワードにもなり得る。アメニティのサービスは日本の企業を活性化する大きな役割を担っているといえるだろう。

(文中敬称略)

株式会社アメニティ
●代表者:山戸伸孝
●創業:1989年
●業種:トイレの総合メンテナンス
●従業員:42名(うち正社員36名)
●年商:8億1000万円(2016年度)
●本社:神奈川県横浜市
●ホームページ:http://www.do-amenity.co.jp/
(写真提供=アメニティ)
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