電子レンジなどに使われるマイクロ波を使って化学品の量産に世界で初めて成功したのが、大阪の大学発ベンチャーであるマイクロ波化学だ。この快挙は、100年以上にわたり基本技術が変わらなかった化学産業に革新を起こす可能性があると世界の注目を浴びる。

100年ぶりに化学産業を革新する

吉野巌・マイクロ波化学社長

電子レンジで「チン!」と、あっという間に食品が温まるのは、マイクロ波を使っているからだ。マイクロ波は波長が1mmから1m、周波数は300MHzから300GHzという幅広い電磁波で、通信、センサーから乾燥、電子レンジなど幅広く利用され、人類にとってとても有用な電波である。

電子レンジはマイクロ波の中で、2.45GHzの周波数を使っており、短時間で対象を目的の温度まで上げることができる。というのも、お湯などで温めるのと違い、マイクロ波は対象を分子レベルで激しく振動・回転させて内部加熱を引き起こすからだ。

それほど便利なマイクロ波ならば、加熱による合成で物質を生産する化学産業に活用できるのではないかと、考えるのも当然のこと。実際、現在も小規模の化学合成には使われている。

しかし、世界中で大手化学メーカーや研究者たちが取り組みながら、産業レベルの大量生産に成功したことはただの一度もなく、誰もが不可能だと思っていた。その不可能の壁を打ち破ったのが、従業員40人ほどのマイクロ波化学である。2009年に実験室レベルの1号機開発に成功し、2014年に大阪市住之江区に実用レベルの5号機を建設した。

この住之江プラントは24時間全自動制御で年間3200トンの生産能力を持つが、従来型の化学プラントに比べて、消費エネルギーは3分の1、加熱時間(化学反応にかかる時間)は10分の1、用地面積は5分の1ですむ。コンパクトで省エネで、早いのだ。同社を創業した社長の吉野巌(49歳)はこう語る。

「19世紀後半から盛んになり始めた化学産業は、100年以上にわたり、同じやり方で製造してきました。他の分野ではイノベーションが起こっても、化学産業は変わらなかったのです。マイクロ波によって100年ぶりの革新を起こしたいと思っています」

住之江の第1号プラントでは、現在、インキの原料となる脂肪酸エステルを生産しており、大手インキメーカーの東洋インキ向けに出荷し、新聞のカラー印刷に使われている。2017年3月には、食品素材メーカーの太陽化学と合弁で、三重県四日市市にある同社の工場内にショ糖脂肪酸エステル製造する第2号プラントが竣工した。ショ糖脂肪酸エステルは、食品用乳化剤の一種で、主に缶コーヒーなどに使われる。生産能力は年間約1000トンで、年間20億円の売り上げを見込む。今後、数年以内に東南アジアへの進出も計画している。