不可能と言われた装置の大型化に成功

マイクロ波利用するリアクター(反応器)の大型化に成功した。

マイクロ波による化学品製造については、1986年の有機反応に関する論文以降、30年以上にわたり、国際学術論文が5000~1万本以上発表されている。研究室の規模のマイクロ波化学装置はあるが、リアクター(反応器)の大型化に誰も成功せず、量産は不可能と信じられてきた。

というのも、マイクロ波は物質に深く浸透しにくく、漏れも多く、反射する上、均一に分布しないからだ。例えば、電子レンジに使われる2.45GHzのマイクロ波は、水に向かって照射すると、深さ数センチでエネルギーが半減してしまう。10~20立方メートル(キロリットル)クラスの実用レベルのリアクターならば、マイクロ波を10~20mの深さまで浸透させなければならず、この課題を打ち破ることができなかった。

吉野と一緒にマイクロ波化学を創業した取締役CSO(Chief Scientific Officer)の塚原保徳(42歳)は、マイクロ波化学や有機化学の専門家で、技術開発のリーダーとしてこの難題を乗り越えてきた。

「マイクロ波がうまく炉(リアクター)に入らず、不要なところを加熱したり、集中しすぎてステンレス製の炉が焦げたりすることもありました。失敗と成功の繰り返しで、2007年から開発を始めて、2009年にようやく7リットルのラボスケール(実験室レベル)の装置が完成しました」

装置は、マグネトロンとリアクターから構成される。マグネトロンから発生したマイクロ波は、導波管を通じてリアクターの中に照射される。この導波管の位置や角度を変えたり、細かい改造を施したりして何度も実験を繰り返した。この課程で炉が焦げるなどのトラブルもあった。大きなブレークスルーというよりは細かい改造の連続だったが、一つの転機はリアクターを横型に変えたことだった。

通常、化学工場のリアクターは縦型だが、塚原はこれを横型にして、左から右へ溶剤を流しながら連続的に反応させる方式を思いついた。装置を寝かせて、溶剤をためる上部に隙間を作ることで、マイクロ波が奥まで浸透するようになった。

また、リアクター内をいくつかに仕切り、その仕切った空間に羽をつけて、攪拌しながら溶剤が流れるようにした。これによって、効率的に反応が進んだ。