※本稿は、細井裕司『挑戦する人か、文句を言う人か 奈良医大7883日の奮闘と大改革』(日経BP)の一部を再編集したものです。
入学式の式辞も『学報』も変えた
教育改革により、大学の在り方を大きく変えようとしてきた私にとって、最も重要な役割の一つは、学長自らの言葉で大学の方針や挑戦を伝え続けることだ。「こんな制度をつくった」「こんな協力体制を構築した」と突如発表しても、何のためにやっているのかという意義や目的が伝わらなければ、大学の思いと学生の思いは離れてしまう。そうならないようにと、細井流のコミュニケーションを始めた。
まず、入学式の式辞では、いかに記憶に残るかを考え、壇上で一方的に話し続けるのではなく、パワーポイントを用いる形式を採った。聴覚だけでなく、画像や文字といった視覚にも訴えることでより強く印象付けられるからだ。私は学生が興味、関心を持ち、自分事として捉えてもらうための方法を常に考えていた。
また、学生や教職員、学校関係者に向け年4回発行される学内広報誌『学報』に、「学長からのメッセージ」を毎号掲載することにした。ここには式典でのあいさつの内容を記録するだけでなく、大学の取り組みや「挑戦の精神」にまつわるエピソードを私自身が記している。文字で残せば読み返すこともできる。ふとした時間に目に触れることで理解を深めるきっかけになればと2016年から執筆を始めた。
学生や卒業生に対するサポート体制
「奈良医大は、在学中も卒業後も面倒見のいい医科大学です」。このキャッチフレーズを携え、教育改革と同時に進めてきたのが、学生や卒業生に対するサポート体制の充実だ。14億円の寄付を集めた(先述)未来への飛躍基金だけでなく、教職員が一丸となって支援体制をつくり上げてきた。例えば、学生や研修医に対して、臨床研修センターでは、キャリア構築の相談や進路指導といったサポートを手掛けている。
卒業後の生涯教育システムも構築した。最新医学知識の共有から自身のプレゼン能力を磨くスキルアップ講座まで、生涯のパートナーとして資質を生かすための支援を行う。
奈良医大の方針を知ってもらうため、学生にとどまらず、保護者を対象とした取り組みも開始した。まず、入学式や卒業式では必ず、「奈良医大は卒業後も心のよりどころとなり、生涯にわたってサポートを続ける面倒見の良い医科大学です」と繰り返し強調し、支援事例を紹介している。
そして、入学式や白衣授与式(臨床実習開始前に実施)には保護者を招待。入学式後の食事会では、県知事臨席の下、教育方針や卒後教育の仕組みを述べることにした。私立大学では一般的な取り組みかもしれないが、国公立大学では保護者を対象に食事会を行っている大学は少ない。これらの保護者に対する試みは2014年から開始しており、本学の長所を保護者の方々に理解いただくのに役立っていると思う。これに加え毎年、6年生の保護者全員に10ページに及ぶ長文の「学長からの手紙」を送付している。

