現地工場で指導者が務まる熟練技術者

「日本の企業、特に世界的なシェアを持つBtoBのメーカーに来ていただきたい」――シンガポール経済開発庁副次官・リム・スウィニェン氏のリクエストは直截的だ。

「1965年に英国から独立して以降、シンガポールには旧松下電器産業(現パナソニック)、住友化学など数々の日系大手が工場を構えました。しかし今、我々の強みを最も生かせるのは、優れた技術を持ち、世界のマーケットで高いシェアを保っている中堅企業です。海外進出の選択肢の一つとしてお考えいただいていいのでは」

アジアの金融センターであり、富裕層の住む世界的な観光地。工業団地が立ち並ぶ光景はいま一つイメージしにくいが、シンガポールという選択肢のメリットとデメリットを検証してみたい。

シンガポール経済の先行きについて、三菱UFJモルガン・スタンレー証券・李智雄シニアエコノミストは慎重だ。ネックは、他ならぬ中国経済である。

「そもそもシンガポールは輸出依存度が高いが、依存度トップは実体経済の減速が懸念される中国。マレーシア・香港など他の輸出先も、中国への依存度が高い」

実体経済以上に、中国の購買力の減速が気がかりだ。一国の購買力は為替レートが大きく左右する。

GDPの2割は製造業――(上)日本の電子部品メーカーが設けた工場(シンガポール経済開発庁=写真提供)。(下)シンガポール南西地区にあるジュロン工業団地の居住区画(時事通信フォト=写真)。

「元安の進行で、アジア経済全般は中国向け輸出もインバウンドも伸びず厳しい状態。他国よりはしっかりしているシンガポールも、新たな成長エンジンを見つけねばならない状態といえます」(李氏)

その新たな成長エンジンを担う一翼として、日本の中堅企業に注目している、というわけだ。

シンガポールのGDPの約2割を占める製造業を概観してみよう。

「昔は他のアジア諸国と同様、ソニーやアップル、モトローラの製品を大量生産していました。しかし、BtoC製品の価格競争が激しくなった今は、工業部品や工作機械、生産設備の組み立て等々、工程が複雑で付加価値の高い製品を多く手掛けています」(リム氏)

仏ロールスロイスが現地で航空機エンジンを製造するほか、工作機械のヤマザキマザックなども工場を構えている。

「生産ラインを1日に2、3回変えて別タイプの製品をつくるなど、複雑な工程を手掛けることのできる技術者が豊富です」(同)