長引く円高と景気低迷に加え、中国や韓国など新興国の台頭によって、日本企業はかつてないほどの苦境に追い込まれているようにみえる。

福井県立大学 
地域経済研究所所長 
中沢孝夫氏

ソニーやパナソニック、シャープといった大手企業すら青息吐息なのだから、中小企業の現状はさらに厳しいに違いない。そう考える人も少なくないだろう。だが、現実はそれほど悲観的ではないのである。

財務省が発表した「平成21年度法人企業統計調査」によれば、資本金1000万円以上1億円未満の中小企業の売上高経常利益率をみると、24.8%もの中小企業が大企業の平均値を上回っているのだ。

意外に感じるかもしれないが、私のように日ごろから中小企業の実態を調査している人間にとっては、この数字はきわめて実感に近いといえる。

グローバル化にしても、対応できていないのはむしろ大企業のほうで、とくに東アジア諸国では日本の中小企業の台頭がめざましく、年率50%、60%といった高い成長を遂げている会社も珍しくない。

日本の一部の大手企業が不振をかこっているのは、ひとえに競争力のある現場力を活用できていないからだ。言葉を換えれば、経営トップの責任なのである。

会社がどこで付加価値を生み出すかといえば、現場しかない。つまり、「現場こそが最大の経営資源」なのだ。中小企業の社長はたいてい、自分が先頭に立って現場で働いているので、そのことがよくわかっている。

ところが、大企業の場合は、経営陣と現場との距離が遠い。しかも、社長には1980年代にアメリカのビジネススクールで経営を勉強したような人が多く、当時授業でやったケーススタディーに倣って、本社より先に会社の中でも最も大事な現場のリストラを行ったり、海外工場を売りとばしたりといったことをついしがちだ。これではうまくいくはずがない。

また、日本企業の強みは技術力だが、それをもっているのも広い裾野としての中小企業だ。もっと正確にいうなら、日本の誇るコア技術が活かされているのは、部品や素材といった中間財に多く、そのような領域でも中小企業は強い。中間財は通常、長年にわたって複数の技術を擦り合わせた結果できあがっているから、そう簡単には真似ができない。

一方、スマートフォンや液晶テレビなどエレクトロニクスの完成品というのは、中間財の「組み合わせ」でつくれてしまう。そうすると技術力よりも、いかに消費者にとって魅力的なものを提案するかという発想力や感性が大事になってくる。ところが、日本の大手企業はこの部分が弱い。だからアップルやサムスンに市場を奪われてしまうのだ。