軸足は、日本に置いておくこと

まず、大企業の要求に左右されないような独自の「価格決定権」をもつということだ。

たとえば、建設機械などはアメリカのキャタピラー社が価格を支配しているので、値崩れが起こりにくい。ところが、日本はこの価格形成力がきわめて弱いのである。価格決定権を握るには、自社製品のブランドが必要だが、これは完成品だけでなく、中間財でも可能だ。

このブランド化ができていないと、価格競争に巻き込まれることは避けられない。そうなったら消耗戦だから、仮に市場の勝者となったとしても、労多くして功少なしという結果に終わる可能性大だ。

では、ブランド化するにはどうすればいいのか。ひと言でいうなら、コストダウンでは太刀打ちできないような価値を製品やサービスにもたせればいいのである。さらに、他社が簡単に真似できないよう、キーとなる部分をブラックボックスにしておくといいだろう。

それから、ほかに代替できない独自の価値を生み出すために、思い切った投資をする。これが、事業部制をとり、かつ四半期ごとに利益を確定しなければならない大手企業だと、こういう未来を見据えた大型投資は難しい。社長の決断でリスクがとれる中小企業にこそ、イノベーションのチャンスはあるのである。

ともあれ、海外に進出する場合も、本社やマザー工場の軸足は、日本に置いておくことが重要である。

過酷な日本市場で日々切磋琢磨し、鍛えられて獲得した高いレベルの技術やサービスを武器に海外に行くから、現地で優位に立てるのだ。ところが、日本で勝てなくなったからといって海外に出ていっても、日本で通用しない技術やサービスではしょせん長続きしない。

日本の中小企業が評価されるのは、あくまで今も第一線で戦っているトーナメントプロだからなのだ。現役を引退したレッスンプロが楽に勝てるような市場は、世界のどこに行ってもないのである。

福井県立大学 地域経済研究所所長 中沢孝夫
1944年生まれ。高校卒業後、郵便局を経て全逓中央本部に勤務。93年立教大学法学部を卒業、2000年に兵庫県立大学教授に就任。08年に福井県立大学経済学部教授、09年より現職。著書に『グローバル化と中小企業』(筑摩書房)など多数。
(構成=山口雅之 撮影=永井 浩)
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