フライドポテトを食べ続けた少年が亡くなるという事例があった。一体何があったのか。鳥取大学医学部教授の飯野守男さんは「死因は腸閉塞だったが、それだけで説明できる死ではなかった。解剖によって病気だけではなく、その人の背景まで見えてくる」という――。(第1回)

※本稿は、飯野守男『法医学教授が教えている死体の授業』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。

フライドポテト
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胃が大きくなりすぎて小腸が壊死

「嘔吐が止まらない」と訴える中学生の男子が病院へかけ込みました。お腹の調子が悪いのだろうとの判断から整腸剤を処方され、帰宅しましたがその直後に少年は死亡。

解剖によって判明した死因は、「ハンバーガーチェーン店のフライドポテト」によるものでした。子どもの死は原因がなにであっても痛ましいものですが、とりわけ個人的に印象に残っているのが「ハンバーガーチェーン店のポテトが原因で死にいたった少年」のケースです。

嘔吐で病院にかけ込み、整腸剤を処方されたけれども、死亡してしまった中学生男子。若く既往歴もない少年の突然死の原因を明らかにするため、解剖を行ったところ、衝撃的な事実が明らかになりました。少年の死体を解剖して胃を切り開いたところ、まず胃全体が異常に大きくなっていました。

さらに拡大した胃が腸を圧迫し、骨盤の狭い空間に小腸の一部がググッと入り込んだ結果、小腸が壊死えしして黒く変色していたのです。小腸は通常、食べ物を消化して通過させるトンネルのような役割を果たす器官ですが、この腸が穴にはまり込んだ結果、トンネルが狭くなり、食べたものが通過できなくなります。

食欲低下、お腹の張り、吐き気、嘔吐などの症状を引き起こすこの状態は医学的に「腸閉塞ちょうへいそく」と呼ばれています。

では、なぜ少年は腸閉塞を起こしてしまったのか?

食費500円でフライドポテトを買う日々

原因は生前の彼の家庭環境にありました。少年は父子家庭の一人っ子であり、毎日の食事は父親から渡される500円で、すべてまかなっていたことが死後明らかになりました。

「500円で調理の必要がなく、たくさん食べられてお腹が膨らむものを」と考えて思い浮かんだのが、子どもでも気軽に立ち寄れるハンバーガーチェーン店のフライドポテトだったのでしょう。毎食フライドポテトだけの食生活、そして腰椎ようついが人より1個多かった少年は、ほぼ毎日、油の多いフライドポテトだけを食べ続け、腸閉塞を起こして苦しみながら死にいたりました。

「貧困」と書かれたニュース見出し
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栄養バランスが極端に偏った生活が原因だったことは間違いありませんが、もうひとつ不確定ながらも、この少年固有の事情もありました。人間の腰椎(腰あたりにある背骨)は通常、5個あります。ところが、CTで腹部を撮影したところ、少年には6個の腰椎がありました。

まれに腰椎が6個ある人はいますが、骨が1本多いということは、腹部のスペースが標準より広い可能性があったと考えられます。要するに、普通の人よりもお腹がちょっと広い。けれども、小腸の長さは標準だったため、消化の悪いフライドポテトの過剰摂取で胃にガスがたまって膨らみ、余っている腹部の空間に小腸の端が入り込んで壊死した可能性もあります。

CTと解剖だけでは、食生活と腰椎の因果関係を明言することまではできませんでしたが、私はおそらく無関係ではなかっただろうと考えています。死亡診断書に病名の「腸閉塞」としか書くことはできませんでしたが、背景には1人親家庭の貧困や、福祉制度の取りこぼしが関係していることは明らかです。

少年に手を差し伸べられる大人が1人でも身近にいれば、と心から残念に思わずにはいられない解剖でした。