「ゴールドマン・サックスの面接を53回受けた男」「毎朝3時45分に起きて25キロ走る人」――。数字にはインパクトがあります。私も数字で自分のことを覚えてもらっていることがよくあります。
外資系金融出身なので「数字に強い」というイメージを持たれがちですが、振り返れば小さい頃から算数は得意なほうでした。「すごく大きい」と形容詞で説明されるより、数字で説明してもらったほうが気持ちいい、という感覚も早くから持っていた気がします。
大学では物理を専攻しました。数学を使って世の中の原理や現象を説明していくことに興味を覚えて大学院まで進んだところ、取り組んだのはニッチな基礎研究。知的好奇心は満たされるものの、ダイナミズムには欠けていました。そこで大学院を中退し、ダイナミックな仕事ができそうなゴールドマン・サックスに入社したのです。
「100万円儲かった」の内実を瞬時に判断する方法
物理の世界で繰り返していたのは、仮説を立て、ロジカルに分解し、一つずつ検証していくことです。問題が起きたら、ここに歪みがあるのではないかと考え、リスクを取って新しい方法を試してみる。こうしたプロセスは、物理でも金融でも全く同じです。
ゴールドマン・サックスにせよ、何千億円も稼ぐヘッジファンドにせよ、仕事の中で使うのはもっぱら四則演算です。問いを立て、リスクとリターンがどこにあるかを言語化しながらロジカルに解を導き出す。その過程の中で数字を使って考えるということです。
不動産投資なら、物件の周辺地域が発展しそうなときに、その予測が当たる確率と当たったときのリターン、災害が起きる確率とそうなったときのダメージをそれぞれ掛け合わせ、どちらが大きいかを比較します。前者が80で後者が20なら、リスクを取ってでも投資しようと判断できます。中学校で習う「期待値」の考え方です。
さらに、量と率を常にセットで考えることも心がけています。「100万円儲かった」という話であれば、元手はいくらだったのかを必ず問います。元手10万円が100万円になったのならすごいことですが、1億円を運用しているのならたかだか1%の利回りでしかありません。同様に、「利益率30%」とアピールされたら量に注目します。100万円規模なら簡単でも、100億円規模のスケールではなかなか実現しません。絶対量と率を両方見て、難易度や再現性がどれくらいあるかを見極めることが重要です。
もう一つ大事だと思うのは、電卓やパソコンを使わず、頭の中でぱっと概算する力です。経営会議やグローバルな会議では、参加者は大きな数字でざっくり計算していきます。たとえば「消費税減税のために2年間で10兆円の財源を捻出する」という政党のプランが話題になったら、「日本の税収が80兆円台半ば」「所得税と法人税と消費税の比率がざっくり3分の1ずつ」という知っている数字から、「年5兆円として消費税収の2割弱ぐらい」というスケール感を素早く把握します。そのうえで、「国が運用している年金のファンドが約300兆円あるから、運用益1.5%×2年で財源ができる」などと話を進めていくのです。
商談の場で都度資料を見たりAIに確かめていたりしていたのでは、スピード感で置いていかれてしまいます。一流の投資家を見ていて感じる特徴は、「数字をあきらめない」ことです。ニュースでピンとこない数字を聞いたら、「わからない」と無視せずに理解しようと努める。「日本の国家予算約120兆円」なら割り算をして、「国民1人あたり約100万円くらいだな」と自分に寄せて考えようとします。
こうした対応ができるようになるには、日本の国家予算が120兆円、東京都の人口が約1400万人など、起点となる数字を20〜30個、頭に入れておくといいと思います。形容詞ではなく数字で語ると、一気にロジカルに聞こえて信頼感が増します。
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